正義の話をしよう
What’s the Right Thing to Do?
学生時代、哲学が小難しくて苦手だった。哲学自体は嫌いじゃないが、言い回しや文献が堅苦しくてよく眠れるので、結論まで辿り着かないのだ。それがある人の公開講座を見て、哲学に対する印象がちょっと変わった。今回は 正義 というお話。
トロッコ問題
そのある人とは、ハーバード大学の哲学者 マイケル・ジョゼフ・サンデル(英: Michael Joseph Sandel、1953年3月5日 – )氏で、NHKの「ハーバード白熱教室」という番組で見かけたのが最初の出会いでした。具体例がとてもわかりやすく、考えさせられる題材ばかりで、哲学嫌いの僕でも引き込まれました。
そのサンデル氏が書いた本を紹介しよう。『これからの「正義」の話をしよう』という本で、繰り返し読んでいるが、何度読んでも毎回考えさせられる。
路面電車が100km/hで走行中、ブレーキがまったく効かないことに気づく。前方では5人の作業員が線路の保守を行っている。このままだと5人ともひき殺してしまう。手前には支線への分岐があり、運転手の操作でその支線に電車を進めることができる。しかしその支線にも1名の作業員がいて、支線に進めればその1名が死ぬ。さて、5人の命を救うために1人の命を犠牲にすることは正義か。
参考:マイケル・サンデル 著 『 これからの「正義」の話をしよう 』より
恐らくほとんどの人は、やむを得ないと容認するだろう。
しかし、ちょっと視点を変えてみる。自分が運転手だった場合と、自分が傍観者だった場合。感じ方や結論は同じだろうか。平たく言えば、自分が判断を下す立場と、ただ目撃する立場とでは、導き出す答えは変わるだろうか。仮に同じ答えだったとしても、そこに至るプロセスや事後の感じ方が同じだとは、とても思えない。
どちらが正義か
では、実際に起きた出来事ではどうだろう。
2010年9月、尖閣諸島付近の海域で中国籍の不審船が巡視船に衝突した。日本政府の対応に憤りを感じた海上自衛官が、同年11月、衝突の一部始終を撮影した映像をYouTubeに流出させた。これによって全容が明らかになった。しかし、この行動は正義か。
「よくやった」という声と「ルールを破った」という厳しい意見が、当時は半々だったように記憶している。一方、事実を公表せず不審船の船長も御咎めなしで強制送還した、当時の政府の判断は正しかったのか。この問題を「それはそれ、これはこれ」と本音と建前で片付けるだけでは、何も解決しない。
現場の自衛官は、正義感をもって規則を破ってまで真実を公開した。時の政府は、国益を損ねないために一部非公開にしてやり過ごそうとした。言葉の上ではどちらも「正義」だ。
つまり、正義とは立場によって変わる。
立場が変われば、正義も変わる
時代をさかのぼって、明治維新はどうだろう。結果を知っている現代人は、今日の日本を導いた正しい革命と言うかもしれない。しかし幕府に反旗を翻す行為は、デモの領域を遥かに超え、テロに近しい行動とも言える。
幕府を最後まで守ろうとした会津藩や、五稜郭に籠城した旧幕府軍こそ正義のはずだ。それなのに、幕府を倒した薩長の方が正義だと言わんばかりの扱いはなぜなのか。
赤穂浪士はどうだろう。主君の無念をはらすために立ち上がった赤穂藩士に、正義はないのだろうか。
ここまで並べてみると、どうやら「どちらの立場に身を置くか」によって、自分なりの正義が決まるようだ。戦国の時代から「義は我にあり」と言われてきた。人が言う「正義」は自分にとっての正義であって、他人にとっての正義ではない。だとすれば、絶対的な正義などないということになる。
考えれば考えるほど混乱してくる。しかし逆に言えば、「悪」の定義はシンプルだ。
自分なりの正義をもたない者や考えようとしない者は「悪」。
これもまた、自分なりの正義に立った考え方なので、立場が違えば考え方も異なるだろう。
みなさんは、5人の作業員と1人の作業員、どちらを助けますか。
ちなみに…
マイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」は、NHKが2010年に放映し日本でも大きな話題になりました。サンデル氏本人も来日し、東京大学での特別講義が行われている。「正義とは何か」という問いが、これほど多くの人を引きつけたのは、答えが一つではないからかもしれません。
正義の話をしよう
というお話でした。
~ 本文で参考にした書籍をご紹介 ~
(参考・出典)

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。