ウサギとカメ
The Hare and the Tortoise
これまで多くのクリエイターに話を聞いてきましたが、他人と比べて自分は劣っていると、自己評価が低い人が割と多いようです。特に駆け出しの頃は、SNSで他の人の発信を見るたびに、置いていかれるような焦燥感を覚えるものです。今回は目標の置き所というお話。
油断と言う教訓
あまりにも有名な童話『 ウサギとカメ 』。童謡としてもよく知られたウサギとカメ。のろまなカメを挑発したウサギが、油断して居眠りしている間に、カメに抜かれて競争に負けるという話です。
この話の教訓は、長らく油断しないことだとされてきました。そしてコツコツと歩みを進めることだとも語られてきました。しかし最近では、別の角度からの見方もあります。ウサギとカメが、勝負に向き合う姿勢そのものに違いがあるという見方です。
経験と実績そして称賛
自信のないクリエイターは、なぜ自己評価が低いのでしょうか。大きくは二つの理由が考えられます。
まず1つ目は、単純に経験と実績が少ないことです。これまでの積み重ねの中で、紆余曲折がありながらも成功体験を繰り返す。そのうちに「成功への道程」が身につき、それが確かな自信へと繋がっていきます。
さらに私が思うのは、「失敗を経験すること」の大切さです。失敗を重ねることで、逆に「失敗しない方法」を手に入れることができます。その結果、より大きな、確固たる自信へと成長するのです
したがって、経験が少ないということは、それだけ成功した実感が少ない状態を意味します。当然ながら、任された仕事や業務をやり遂げられるか不安になり、迷いが生じやすくなります。その結果、自分で自分にブレーキをかける「自己ハンディキャップ」が発動しやすい状況になってしまうのでしょう。
周囲からの「称賛」
そして2つ目の理由は、周囲からの「称賛」です。クリエイティブの世界において、正解は1つではありません。そのため、完成する前も完成した後も、「本当にこれが正しい選択だったのだろうか」「もっと他に良い方法があったかもしれない」「最善を尽くせたのだろうか」という不安が残りやすいのです。
完成させたという達成感はあるものの、少し時間が経過すると、また直したくなったり別のアイデアが浮かんできたりして、モヤモヤしている人も少なくありません。
その時、「それでいいんだよ」という外部からの声は、たまらなく嬉しく感じられます。クライアントやユーザーからの言葉はもちろん、とりわけ尊敬する先輩や同僚、同業者からの評価は、それだけでそれまでの苦労が昇華される至福の時と言えます。
しかし、褒めることに慣れていない日本人は、なかなか他人を褒めないばかりか、言葉を社交辞令だと受け取ってしまう哀しい習性があります。悲しいかな、素直に称賛を受け入れられないケースもあるため、私たちはもっと「お互いに褒め合って伸ばす環境づくり」を意識しなければいけません。
経験や実績で成功体験を掴み、周りの人たちが称賛して正当に評価する。この両方が揃うことで、初めて自己評価が高まります。どちらが欠けても、本物の自信には繋がりません。
何と闘っているのか
ここで改めて、ウサギとカメの話に焦点を戻しましょう。競争や闘いにおいて「油断大敵」という教訓はごもっともです。相手をナメて負けることほど、悔やんでも悔やみきれないことはありません。
しかし最近では、このウサギとカメの「争う姿勢」に決定的な違いがあるという新説が、まことしやかに囁かれています。後付けの解釈ではありますが、これがなかなかに本質を突いていて面白いのです。
その新説を紐解く前に、自信が持てないクリエイターの皆さんに問いかけたいことがあります。皆さんは、いったい「誰」と何を争っているのでしょうか。まずは、クリエイターになる前に志していた、かつての理想のクリエイター像を思い出してみてください。
現代のクリエイターは、他人の作品を見たり、誰かの尖った考え方に触れたり、新しいスキルを始めたりする機会に溢れています。しかし、SNSなどの投稿や配信を見ては、誰かと自分を比較して悶々としてしまいがちです。
はじめは「好きなことや得意なことを仕事にしよう」「クリエイティブで誰かの助けになりたい」と思って始めたはずです。それにもかかわらず、いつの間にか「誰かと競争すること」にミッションがすり替わってはいないでしょうか。
実は、ウサギとカメの考え方の違いは、まさにこの一点にあります。
他人への嫉妬をリスペクトに
他人の活躍を見て、悔しかったり羨ましく思ったりする気持ちはよく分かります。特に負けず嫌いな性格であれば、そういう傾向はより強く出るでしょう。
しかし、他人の表面だけを真似て「張りぼて」の自分を作っても、実際の勝負にはなりません。結局それは相手の土俵で闘うことになるため、勝ち目はないのです。妬みの感情だけでは、自身の成長も止まってしまいます。
であるならば、自分にできないことを他のクリエイターが実現したときは、素直にリスペクトしつつ称賛を送るべきです。その上で、自分のスタイルを崩さず、内側に静かな闘志を燃やす方が賢明ではないでしょうか。
闘うべき相手は、常に「自分の中」にしかいません。クリエイターとしての本質的な目標とは、他者を蹴落とすことではなく、粛々と自分らしくゴールに向かって突き進むことなのです。
その結果として、気づけば周りから高く評価され、羨望の眼差しを向けられるクリエイターへと変貌を遂げられるのだと、私は確信しています。
ちなみに…
ちなみに、明治時代の教科書にこの話が載った際のタイトルは『油断大敵』だったそうです。童謡としても親しまれてきたウサギとカメですが、時代によって読み取られる教訓は、少しずつ変化してきたのかもしれません。
どうして、圧倒的に足の遅いカメがウサギに勝てたのでしょうか。実は、勝負は最初から決まっていました。なぜなら、ウサギとカメは「見ている目標」が全く違っていたからです。
- ウサギはカメを見ていた(カメに勝ちたいから)
- カメはゴールを見ていた(目的地に到達したいから)
ウサギとカメ
というお話でした。
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ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。