幸福の王子 ~ 自己犠牲のその先

幸福の王子 ~ 自己犠牲のその先

幸福の王子

The Happy Prince

この業界に従事しているクリエイターやエンジニアは、心身をすり減らして色んなものと闘って日夜、制作・開発をしています。そんな制作者たちとダブってしまう、悲哀と哀愁に満ちたお話を紹介したいと思います。自己犠牲というお話。

実家の近くの川には毎年カモとユリカモメが集まって暫く滞在します。そして4月くらいになるとカモやユリカモメたちはまたどこかに旅立っていきます。しかし今年は6月の中旬になっても一向に旅立とうとしない1羽のカモが居ます。それを見て僕は、そう言えば渡り鳥が旅立たないって話があったよなぁ…と思いながら、やっと思い出したのが『幸福の王子』です。

内容があやふやだったので再度、読み直すことにしました。

ある街に自我を持った幸福な王子の像が立っていた。両目には青いサファイア、剣の装飾には真っ赤なルビー、体は金箔に包まれ、心臓は鉛で作られていた。とても美しい王子は街の人々の自慢だった。
ある時、ツバメが王子の像の足元で休んでいると、不幸な人々に自分の宝石をあげてきて欲しいと王子から頼まれた。ツバメは言われるがまま王子の剣のルビーを病気の子どもがいる貧しい母親に、両目のサファイアを飢えた若い劇作家と幼いマッチ売りの少女に持っていった。

南の国へ渡る事を断念したツバメは、その後も街中を飛び回り、両目をなくし目の見えなくなった王子に色々な話を聞かせ、まだたくさんの不幸な人々に自分の体の金箔を剥がし分け与えた。

やがて冬が訪れ、王子はみすぼらしい姿になり、次第に弱っていくツバメも死を悟り、最後の力を振り絞って飛び上がり王子にキスをして彼の足元で力尽きた。その瞬間、王子の鉛の心臓は音を立て二つに割れてしまった。

みすぼらしい姿になった王子の像は、心無い人々によって取り外され、溶鉱炉で溶かされたが鉛の心臓だけは溶けず、ツバメと一緒にゴミ溜めに捨てられた。
天国でその様子を見ていた神が天使に「この街で最も尊きものを二つ持ってきなさい」と命じ、天使はゴミ溜めに捨てられた王子の鉛の心臓と死んだツバメを持ってくる。神は天使を褒め、そして王子とツバメは天国で永遠に幸福になった。

何とも後味が悪い話です。自分を犠牲にした王子の像とツバメは結局、この世で報われることはなかった。現実なんてこんなもの。

よく仕組みもわからずに、にわかWEB担当者が最初に出した仕様を無視して、修正も追加も仕様変更も、訳も分からず途中からゴリ押ししてくるケースとか、ココをちょこちょこっと直してよ、みたいなちょこちょこ詐欺。みなさんも一度は経験があるでしょう。
そのたびに、クリエイターが食事の時間や寝る時間、余暇を削って対応していることを、にわかWEB担当者は全く分かっていない。そういうことに一切気付くことができないデリカシーのかけらもない。

本来なら、こちらも相手の気持ちは考えずに「仕様と違うので対応しません」と遠慮なく言えばいい。積み上げて確認しながら積み上げで制作を進行してるので、クライアントの無茶振りや我がままに付き合う義理などない。

でも実際は、その後の関係性や案件を進捗させる上で揉めたくないから言えない気持ちもあるし、だからと言って1つ受け入れてしまうと雪崩れ式に要望がエスカレートする可能性もあるし、単純に要望を実現してあげたいって気持ちもあるし、心中は複雑です。

ただ一つ言えるのは、決して自己犠牲の上に何か良いことが成し遂げられるなんてことはありませんから、王子の像やツバメのように、骨身を削って、心身をすり減らしてまで付き合う必要はないと思うのです。

特に一人で活動されるフリーランスのみなさんは自分の身は自分で守らなければなりません。
自分の価値を安く分け与えて、天国なんかで幸せになっても意味がありませんし、そもそも地獄や天国って生きてる間に味わうものですよね?
気持ちよく制作するためにも、スキルや知識、情報はなるべく高く分け与えて、現世で天国へ上るように努力したいものです。

ちなみに近所のカモは、しばらくボッチで寂しそうに過ごしていましたが、先ほど川を覗いてみたら、なんと3羽に増えてました。
仲間が戻ってきたのか、はたまた新たな家族ができたのか、いずれにしても孤独じゃなくて良かったね。

幸福の王子

というお話でした。

~ 本文で紹介された書籍をご紹介 ~

幸福な王子 (望林堂完訳文庫)