目に見えぬ象

目に見えぬ象 ~ オリエンの重要性

目に見えぬ象

Blind men and an elephant

クライアントやディレクターから案件の詳細を聞かされずに「こういう作業をいつまでにお願い」とだけ言われて着手することがあるだろう。全体像が見えないままの作業は不安なものですよね。今回はオリエンの重要性というお話。

自分が今、全体のどの部分の作業を任されているのか、訳も分からず、なんとなく納期に合わせてただただひたすら作業をする。
指示する方もされる方も、そんな経験をしたことが一度はあるじゃないだろうか。
比較的小さめの案件やリニューアル案件であれば、サイトの全体像を掴み易いだろうが、デザイナーやコーダーが複数アサインされ、システムも絡んでくるような大・中規模の案件や、作業分担がきっちり成される案件の場合、全体像を把握できないことはよくある。

インドの『 スーフィーの寓話 』にこういう話があります。

象を見たことがないというある村に、1頭の象を連れたインド人の一行が訪れた。その噂を聞きつけて、村人たちが一目見ようと象小屋を訪れる。

しかし象小屋には明かりがないため、真っ暗で象がハッキリ見えなかったので、村人たちは恐る恐る象に触れて確かめることにした。

ある者は象の鼻に触れ「象とは、まるで水道管みたいな生き物だ」と言った。

またある者は象の耳に触れて「扇のような生き物だ」と言う。

また別のある者は脚に触れて「柱のような生き物」と言う。

さらに別の者は背中に触れて「王座のような生き物」だと言う。

それぞれが感想を言い合い、自分が正しいと対立する。

もしも彼らひとりひとりが、その手にロウソクの明かりを持っていたなら争いなど生じなかっただろう。

スーフィーの寓話『目に見えぬ象』より

これは『 目に見えぬ象 』という話で、例えばデザインとコーディングを別けてディレクターやプロデューサーが統括し、それぞれが専門性をもって制作を行うスタイルの場合。ちなみにQriousは完全分業制なのでこのタイプ。この場合、上の例に当てはめるとこうなる。

新しい案件を請けたらしい。その案件にアサインされるとディレクターに聞いたが、一向に詳細が降りてこない。

するとある日突然、具体的な作業内容を指示され、いついつまでにやってくれと言われた。

あるデザイナーは、渡された素材と経験で何となく進めた。

あるコーダーは、言われた通りのコーディングを、プログラマーも言われたような動きをJSで作った。

そして出来上がったものをデザイナーとコーダー、プログラマーが合わせてみたが、それぞれディレクターから聞いた情報を独自に解釈して制作をしてしまったため、全く合わせることができず、デザイナーもコーダーもプログラマーも、それぞれ意見を主張し、まったく譲らずにディレクターは困ってしまった。 ディレクターがしっかりと全体像を把握させ、要所要所でチェックしてさえいれば、こうはならなかっただろう。

つまりディレクターは暗闇を照らし、象の全体像を見せる「あかり」であるべきなのだ。

完成形が分からない絵描き歌

クライアントの担当者や代理店の担当者にも、制作会社に対して全体の情報を開示しなければ同じようなことが起こり得るということです。

説明が面倒臭いのはわからなくもないが、オリエンやキックオフを軽んじて怠ってしまうとクオリティの保証はできないし、後々工数が増えたりして面倒なことにもなり兼ねない。

それが例え全体の一部だったとしても、どこでどのような役割を果たすパーツなのか、関わる全員が共有し、把握しなければ、制作チーム内ですら噛み合わない箇所が出てくる。

完成する絵がどんな絵なのか知らな人に、その絵の絵描き歌を聞かせて描いてもらっても、それがどのパーツでどこに配置するものなのか、どの部分を歌っているのか把握できなければ、完成したその絵は、福笑いよりも悲惨なものになるだろう。

チームやプロジェクトなど、大勢のクリエイターやエンジニアをつかう場合や専門性を高めるために分業を進めていく上で、ディレクションやプロデュース、マネージメントをする立場にある人、クライアントの発注者は、まず『 象 』を見せることが重要。

そして象を見せた上で、歌いながら鼻や耳、足、胴体などの詳細を説明するべきなのだ。これまでオリエンやキックオフを軽んじて、適当に済ませて上手く行っているとしたら、それはチームのみんなに大いに感謝すべきだろう。

今後は是非、サイトやサービスについて制作チーム全体に徹底して周知させるためのオリエン、キックオフを実践して欲しい。そうすれば、制作者や開発者がモヤモヤせずに、今まで以上にスムーズに進捗するだろう。

そうなれば、プロフェッショナルなクリエイターやエンジニアは、それぞれのスキルやナレッジを駆使して、想像以上のクオリティで応えてくれるはずです。

クリエイターやエンジニアとはそういう職人気質を思った人種の集まりなのだから。

目に見えぬ象

というお話でした。

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