カズウィーンの勇者殿

カズウィーンの勇者殿 ~ 鬣(たてがみ)の無い獅子

カズウィーンの勇者殿

Hero of Kazwien

クライアントは他と何か違うものっていう爆弾をしばしば投下してくる。差別化とかオリジナリティとか、強みやブランディングとか、その名を変えて襲ってくる。でも、その多くは思い付きやノリのようなもの。だんだんと現実味を帯びてくると…。弱虫の勇者殿というお話。

イランにカズウィーンという地域があり、怪我や災厄など魔除けとして青い刺青を彫る伝統と習慣があるそうだ。
ある日、カズウィーンのある男が刺青を彫り威勢よく注文する。

「とびきり上等の、うんと芸術的な刺青を頼む」
「何を彫りましょう?」
「吠えまくる獅子がいいな、凄まじく恐ろしい奴。染料も針もけちるなよ、たっぷり使って、真っ青にしてくれ」
「どこいらへんに彫りましょう?」
「肩のあたりだ。肩甲骨の上にちくりとひと刺し。奇麗にやってくれよ」

そこで彫師がブスリと針を肩に突き刺すと、我らが勇者殿はたまらず悲鳴を上げた。

「痛い、痛い。彫師さんよ!あんた、おれを殺す気か?一体、何を彫っているんだ!」
「何を彫ってるんだって獅子を彫れって…」
「そんなことは分かってる!獅子のどのあたりを彫っているのかと訊いているんだ!」
「獅子の耳ですよ」
「頼むよ…耳など無くたってかまうもんか。耳なんざ切り落としちまえ!ああ、それからついでに、たてがみも短く刈り込んでやってくれ!」

参考:スーフィー寓話「カズウィーンの勇者どの」より

クライアントが他とは違う何かを求める気持ちは差別化という点でよくわかるし、本気でそうしたいのならぜひ協力もしましょう。一緒に創りあげていきたいと思います。
でも残念ながら、その進捗過程で段々と怖じ気付いてきて結局、無難なものへとシフトして、また同じ所に戻ってくるの繰り返し。行きつ戻りつは繰り返される。

獅子の刺青を望んだその男は、痛さのあまりに耳も尻尾も腹も彫るなと悲鳴を上げる。困惑した彫師はしばらくじっと考え込み、やがておもむろに針を床へ叩き付け、弱虫の勇者殿にこう言う。

「世界中のどこにこんな馬鹿げた話があるんだ!尻も頭も腹も無い獅子など、存在するならいっぺん連れて来てみろ!神様ご自身だって、そんな獅子を創った憶えはないだろうよ!」

参考:スーフィー寓話「カズウィーンの勇者どの」より

おっしゃる通りだ。獅子を創りたいのなら、その姿は獅子でなければならない。たてがみがなくなってしまったら、それは猫でしょ?

カズウィーンの勇者殿

というお話でした。