ギルドという新しい働き方
P.S What’s guild – LokiChan #1
全世界を困惑させる新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により、外出が制限され、働き方や企業の在り方も大きな転換期を迫られる事態となった2020年前半。今もなお、第2期を横目に制限されている状況の中、我々クリエイターが生き残っていく術はあるのでしょうか。ロキチャン #1 あとがき。
ギルドとは?
Talk theme
ロキチャン #1 のテーマは、ギルドという得体のしれない組織での働き方を弊社モデルを実例として紹介するというもの。そもそも、ギルドという組織形態に決まりがあるわけでもなく、あくまで独自の考え方やポリシーに則っているにすぎないので、こういうものだと勘違いしないでいただきたい。
かつて、古代ヨーロッパで業界別に職業組合があったと言われていて、それがギルドの始まりとされています。ゲームやアニメ好きな方は馴染みのある言葉かもしれません。さしずめギルドに所属するメンバーは、冒険者や攻略者といったところでしょう。仕組みとしては同じです。イメージしにくい方は、ログ・ホライズンやFAIRY TAILなどのアニメをご覧ください。
ふりかえり
今回は、ギルドを知ってもらう前に、どういう経緯でギルドが生まれたのか?とか設立した時の背景、そしてギルドの仕組みと女性制作ギルド 秘密結社Qrious(キユリアス)がどのように運営しているかなどをお話させていただきました。残念ながら、時間の関係で最期までお話しできませんでしたけど、この振り返りで話せなかった部分を少しだけ、公開しようと思います。
- ゲツコーギルドが誕生した経緯
- 修行チーム『TEAM A’s』
- 弓削島制作舎
ゲツコーギルドが誕生した経緯
ゲツコウギルドは昨年8月に合同会社を設立しました。法人化は本意ではなかったのですが、増えていくプロジェクトとそれに関わる人たち、ギルドメンバーの増加に伴って、それまで個人の自営でやってきましたが、プロジェクトの外側からの期待値やギルドメンバーの羨望の眼差しに耐えかねて、法人化せざるを得なくなりました。
大きく2つのギルド組織が存在し、東京を拠点とする女性だけの制作ギルドQriousと、愛媛県の弓削島を拠点とする弓削島制作舎をブランドとして残す形で運営しています。
修行チーム『TEAM A’s』
2019年10月、紙出身のデザイナーが増えてWEBを学びたいというのをきっかけに、デザイン経験があってもWEBを知らなかったり、一定期間学んだり一人で活動したけど、経験も実績もスキルも身につかないクリエイターの卵やヒナを受け入れるプロジェクトを発足し、実践で育成し、現場で鍛える制度をQrious内に設けて、育成する枠(修行僧)を募ることになりました。
コロナはそれ程騒がれておらず、海外のニュースとして漏れ伝わってる程度だったが、年明けに急に慌しく症例が出始め、あっという間に広がり、雇止めや内定取り消し、決まってた仕事のペンディングやキャンセルなどが相次ぎ、同時にこれを機に学ぼうというクリエイター予備軍の人口が急激に増え、結果的にこの修行チームが受け皿になってしまい。3月から7月までに10名ほど増えて大所帯になりました。
弓削島制作舎
2016年9月、僕が東京から愛媛県・弓削島に移住したのをきっかけに新たに立ち上げたギルド。都会から移住して感じた諦めムードや保守的な事なかれ主義に愕然。聞いてはいたけどこれじゃ若者がかわいそうと思い、地域創生や活性化、人財育成を目的に、地方と都心を繋ぐプラットフォームを創るためにいろんな仕切りを取っ払おうとしています。
シロウトをクリエイターに育成する『ロキプロジェクト』や、がんや慢性疾患、難病など長期闘病を余儀なく策されたクリエイターを受け入れる『シックリ』、島移住を支援するプロジェクトなどなど、制作会社の枠を超えた活動を展開中です。
この他にギルド本体ともいうべき、女性再作ギルド 秘密結社Qrious(キユリアス)がありますが、それはのちほど。
ギルドの仕組み
ギルドといってもそういう決まった組織形態があるわけではなく、あくまでゲツコーギルドの考え方やポリシーをお話しました。一般的にそうだという事ではありませんので、お間違えの無いように。
フリーランスとクライアントの橋渡し
一般的に発注するクライアント側は、安くコキ使いたいのでフリーランスを使う傾向があり、フリーランスは実績や生活が懸かっているので、条件が悪くてもありがたくいただく傾向にあります。
もちろん、お互い真摯に公正な取引が成立するケースもあります。しかし、どちらからも不満の声が出ているのもまた事実。この齟齬を解消する仕組みの一つがギルドの役割だと考えています。
フリーランスの不満
- 単価が安い、納期が短い
- 足元見られて最初に言ってたことを変化させて押し込んでくる
- なんだかんだで引き延ばしてくる
- ちゃんと支払ってくれるか不安
- 高圧的で時にはパワハラやセクハラも
クライアント側の不満
- 質(出来)や要望に応えられるスキルがあるか疑問
- 納期にちゃんと間に合うか心配
- 最後までやり切ってくれるかどうか心配
- 引き渡し後のサポートや運用がやりやすいかどうか心配
お互いに不安や不満があり、疑心暗鬼になってるところもあります。
また、その疑念が的中することもあるのもまた事実。いい加減なフリーランスやスキルが足らないフリーランスが、背伸びして受注するケースも少なくないので、弊社も年に何回かその後始末を依頼されることもあります。弊社ではそれを「尻ぬぐい案件」と呼んでいます。
クライアント側にもブラックな企業や担当者も居ますし、いい加減な中間業者や事業会社も居ます。そういう所から仕事を受けると、ホントにフリーランスは疲弊するし、病んじゃったりトラウマになるケースも少なくありません。
ギルドは、クライアントに対しては、弊社のメンバーはトライアルも人物選考もクリアして「この人はプロですよ、弊社が保証します」とお墨付きを出し、フリーランスに対しては「クライアントとの折衝は弊社が行いますので、あなたは制作に専念できます。その代わりプロとしての責任と最高のパフォーマンスを発揮してくださいね」とガードしてあげる組織です。
エージェントとの違い
似たような仕組みとしてエージェントがあります。大きな違いは、エージェントは制作や開発のプロではありません。受託制作のことはあまりよく分かっておらず、会員企業から仕事を請け負ってそれを振り分けてるに過ぎません。
トラブったら出てきますが、制作のことについて相談もできなければ、スキルが上がることもありません。あくまで、会員企業と会員メンバーとを繋げるマッチングサービス(営業代行)なので、ギルドとはその点が大きく違います。
クラウドソーシングとの違い
これもマッチングサービスという点ではエージェントに似ていますが、エージェントと違うのは、基本的にはプラットフォームを介した直接取引の点で、トラブってもクラウドソーシングサービス側は、当事者間で解決しろというスタンスです。端的に言えば「お見合いサービス」です。
エージェントは、基準に則って仕事を受ける分、まだ良心的かもしれませんが、クラウドソーシングの仕組みは逆オークション形式で、同じことができるなら価格が安い人が優勝です。
エージェントやクラウドソーシングとギルドの大きな違いは、お仕事ベースか人ベースかの違いだと思っています。
弊社ギルドは、何をやるかよりも誰とやるかをモットーにしているので、人物選考が重要視されます。それは、スキルは磨けるけど人柄の本質は変わらないと考えているからです。
ギルドはクリエイターの人柄を担保し、組織やメンバー通しが刺激し合いながら成長することをポリシーとしているので、お仕事紹介をする組織ではないのです。
女性制作ギルド 秘密結社Qrious(キユリアス)
災害に強い組織
2011年3月11日、東日本を襲った大地震『東日本大震災』。その時はまだ東京で制作会社に勤めていました。東京は震度5弱。経験したことのない揺れでしたが、それほど大きな被害はなかった。しかし、首都機能は脆弱で経済的損失が多く倒産した会社も多かった。
フリーランスも仕事を打ち切られフリーランスからフリーターや無職になってしまった。みんな不安で不安でたまらない時にクリエイターのオフ会を開く。
SNSでの呼びかけに応えて、渋谷のカフェバーを貸し切って20名以上のクリエイターが集まってくれた。その中でワーキンググループを創ろうとなったのがきっかけで、話すと長くなるので中略するが、2011年11月にQriousが旗揚げされた。
震災がキッカケだったって事もだが、その後、豪雨災害も経験していて、何があっても日常と変わらない作業環境を維持できたし、そんなつもりなかったけど、全国にメンバーが散らばっていると、安全な地域のメンバーから、災害支援があったり仕事のサポートがあったりしてホントに助かっている。
そして今回のコロナ…初めからギルドはフルリモート、みんな基本的には在宅での作業、メンバーが合うこともないし、日常的にオンラインでのコミュニケーション。何も変わらず仕事も生活もできる。
なんて災害に強い組織なんだ!
今回も改めて思った。仕事が減るどころか、リモートの会社がどうしたら運営できるか?とか、上手く回らないから助けてほしいなど、コンサルやマネジメントの仕事が増え、それに加えてメディアの取材が殺到した。電話取材もTVや新聞、雑誌の取材も受けて、プチバブルっぽくなった。
変化する組織
ここから先は、話す予定だったが時間が無くて切り上げたところ。よくある質問で、Qriousってどんな組織なのか?っていうものがある。しかし、決まったものなど何一つないのが偽らざる事実。
先程、「ギルドは人」って話をした通り、メンバーによってカタチが変わるのだ。これまで大きく2回ほど、解散の危機があった。しかしその都度、残ると決断したメンバーが、新しいカタチに変えてきたのだ。かつてのメンバーには悪いが、今のメンバーが一番スキルが高いメンバーがそろってるし、何といってもデジタルネイティブ世代が居るので、世代交代も上手くできている。
ギルドは餅は餅屋で、完全分業制にしているが、そのスキルが年々細分化し、得意分野を持った新人がたくさん入ってきたので、できることも増えたし、時代の波にも載れているので、トレンドに応えられるし、試験的にやりたい事も先取りでできる。サービスだって創れる。
今後は、インタラクティブやモーショングラフィック、動画など得意な人財を同志として迎い入れ、積極的にWEB制作の可能性を広げながら企業の課題解決に協力したいと考えている。
この先訪れる災難への対応
最後に、ギルドはこの先どうして行くか、ビジョンを少しお話していきましょう。弊社はこれまで「デキるクリエイター」を常に探してメンバーにしてきました。しかし、デキるクリエイターは弊社だけではなく、他の制作会社や現場でも欲しい人財なので争奪戦になります。それがずっとバカバカしいなぁと思ってました。そこで弊社はその不毛な争奪戦から降りることにしました。
降りてどうするか?メンバーとこんな会話をした。
僕:不毛な採用に期待すんのもう辞めようと思って
メンバー1:募集掛けてもいい人来ないもんね
メンバー2:うーん、でも辞めてどうすんの?
メンバー3:勧誘するのも違うしね
全員:確かに…僕:1年間デキる人を2,3人増やしたところで大した増強になんないから、
いっそ1年掛けて数名育てる方がよっぽど戦力じゃない?
全員:確かに…
メンバー1:育てる方が早いかもね
メンバー2:変な癖付く前の方が伸ばせるかもね
メンバー3:勉強会やOJTで半年したらサポート位はできるかねぇ僕:でもみんなが手伝ってくれることが前提になるけど?
ある昼下がりのQriousミーティングより
全員:できることは協力するよ!
今でもTwitterで継続的に募集告知はしてるものの、人を集めたいというより、1人しかメンバーが居ない地域はリアルなコミュニティができないから、かわいそうだなぁと思ってエリアごとに募集する感じで、昔のように戦力強化が目的ではなくなっている。
そして、昨年10月に修行チーム『TEAM A’s』を結成。コロナの影響もあって数名でよかったのに、想定以上の十数名も集まってしまった。今でも問い合わせは続いている。
現在、Qriousのメインを務めるデザイナーやマークアップが、OJTで教えながらスキル向上を手助けしてます。
母性って言うのかなぁ…みんな優しい。一銭にもならないのに嫌な顔一つせずに教えてくれるだけじゃなく、先生役のみんなは僕も含めて感覚的な人が多くて「どうやったらうまく理解させられるだろう?」って常に考えてくれたりして、涙が出ます。出ないけど。
センセーたちは感覚的だけど真面目な人が多いし、思いやりもあっていいメンバーに恵まれたなぁと思います。
長くなりました、〆ます。ここ1,2年で、オンラインスクールやサロンのような育成プログラムやサークルが増えました。半年やそこらで実践投入可能な人財が創れるはずもなく、ましてや3か月程度でWEBクリエイター!みたいな煽りもある中、高額を払って世に放り出されるクリエイターの卵たち。
弊社の調べでは、卒業して半年以内にこの職に就けていない人や既に諦めてしまった人が約4割も存在していた。
勉強中のアカウントがTwitterに溢れ、次から次へと修了する者が増え、いずれ飽和状態になります。
一方、受け入れる側の状況はというと、案件自体がさらに少なくなり、企業の存続もさらに厳しい状態に陥ります。東日本大震災の時も徐々に徐々に景気が悪くなりました。あの時の状態に似ています。
就活や転職がままならず、実績のある人たちまでもが入り乱れる乱戦状態になるでしょう。経験の少ないフリーランスも増え、取引上のトラブルも市場全体が荒れることも、容易に想像できます。
そんな中でギルドはどう動くべきか。これまでと何も変わりません。淡々と粛々と育成プログラムを独自で開発し、転職できたりフリーランスになるまで面倒を見るプログラムやプロジェクトをリリースさせます。
オンラインスクールと違うのは、現役の制作・開発のプロが活きた教材で、実践的に教えること。そして仕事までマッチングさせることで差別化を図ります。
関わったら最後まで
弊社のスローガンです。もちろん共にプログラムやプロジェクトを進める教育機関や終了後に受け入れてくれる東京や大阪をはじめとする制作会社さん、育成の先生役を買って出てくれるクリエイターのみなさん、運営事務局を手伝ってくれるみなさんなどなど、クリエイターの学校や職業訓練の立場で進めます。
ご質問をお寄せください
クリエイターズトークバラエティ『ロキチャン』へ、ご質問やご要望をじゃんじゃんお寄せください。番組中でご紹介させていただきます。
ロキチャン #1 ギルドという新しい働き方
あとがきでした。
~ ロキチャン #1 有料アーカイブ配信 ~
#ロキチャン のzoom生配信を見逃してしまったみなさま、有料アーカイブ配信をはじめます!是非ご覧ください。
なお、売上金は全額、7月3日に鹿児島や熊本を襲った豪雨災害の被災・復興支援に支援金として、日本赤十字社を通じて寄付いたします。是非、ご協力お願いいたします。
クリエイターができる支援…よろしくお願い致します。
~ 質問コーナー『ロキさんに聞きたいっ!』 ~
次回もお楽しみに!
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ゲツコーギルド合同会社 CEO兼プロデューサー
2016年に東京下町から瀬戸内の離島に移住。クリエイターの働き方や人財育成、再生、地域でのクリエイティブやICTを活用したブランディングや地域創生、事業再生を得意としたプロデュースやディレクションで活躍中。メガネ&広島弁や伊予弁など方言女子が大好物。個人的には懐古的なモノがスキ。ネガティブ属性だがユーモアを忘れない。1970年 江戸下町産。