壱萬円札 ~ 信用と取引

壱萬円札 ~ 信用と取引

壱萬円札

Ten thousand

今回はお金にまつわる話をしましょう。と言ってもマネーゲームとか、どうやって稼ぐかって生臭い、胡散臭い話じゃなくて『 お札 』についての話題からクリエイターの取引の在り様に繋げてみようということで、信用と取引というお話。

お金ってよくよく考えたら不思議だと思いませんか。例えば壱万円は実際10,000円の価値があるんだろうか?
特殊な紙と特殊なインク、偽造防止の技術は世界トップクラスで限られた人だけが製造に携わることができる紙幣。当たり前だけど壱万円札をつくるのに10,000円もコストが掛かるわけがない。
だからちょっと調べてみました。

壱万円券:22.2円

五千円券:20.7円

弐千円券:16.2円

千円券:14.5円

平成12年度特別会計予算書に基づく財務省印刷局から日本銀行への引渡し価格

実は正確な原価は公表されておらず、この価格は平成12年度特別会計予算書に基づく財務省印刷局から日本銀行への引渡し価格です。

紙幣って大体20円前後で作れちゃうわけですが、僕らの認識は違っていますよね。壱万円札を見たらそれを10,000円の価値があると認識するし、五千円札を見れば5,000円の、千円を見れば1,000円の価値があると共通した認識があります。

でも他人がこれを壱万円と呼ぶから10,000円と認識してるわけではなく、しかも日本人だけでなく世界の人々が見ても、その国の通貨に換算して同等の価値であることを認めているわけです。
もう一度言けど、これって不思議だと思いませんか。

何故でしょうか。

壱万円=10,000円だって日本国が言ってるんだから、それを信じて取引しましょう

簡単に言えば、そういう事ですよね。

実際インフレが続けば価値が下がるし、国が財政破綻すれば、この紙幣は単なる紙切れ同然になります。要するに信用を失うわけです。少し前にギリシアがそんな状態になりかけ、EUが支援するかどうかって議論があったのは記憶に新しいと思います。

信用と取引

この業界の価格、値決めにも同じことが言えます。
例えば同じ制作案件をフリーランスAに依頼したら、概ね業界標準の適正価格20万円を提示した。
一方、別のフリーランスBに制作を依頼したところ10万円と提示された。
当然ながらクライアントはフリーランスBを選ぶだろう。

問題はここから。
一見、フリーランスAが価格競争で負けた様にも見えるが果たしてそうだろうか。

フリーランスAが提示した20万円という金額は、通常であればこれくらい掛るだろうという、業界的にも妥当で適正と言える金額。一方フリーランスBが提示した金額は、その適正価格の半分で安請け合いをした事になる。

ちょっと考えてみて欲しい。
AもBも自分の意志で金額を決めた。
同じ規模の制作案件ならば何回頼まれても、それぞれAは20万円、Bは10万円で請け負うだろう。
つまりAもBも共に、この時に自分の価値を自分で決めたということになりはしないか。

その後についてシミュレーションしてみましょう。

フリーランスAは、仕事が取れたり取れなかったりするだろうが、常に正当な価格で請けてるから金額的な不満は起こらず、仕事の数も考えた上で値決めしているので、比較的余裕をもってゆっくりと、しかも好きな仕事を楽しみながらできる。
例え急な対応が入ったとしても慌てること無く対応できるだろう。
クライアントの評価も金額に見合った働き、或いはそれ以上だと上々だ。

一方、安請け合いしたフリーランスBは、他のフリーランスに比べて単価が安いため仕事はどんどん入ってくる。
しかし、通常単価の1/2で請けているため、単純に倍、仕事をこなさないと生活が成り立たず、もともと金額的に納得しているわけではないので不満がどんどん募っていく。
数をこなしていかなければならないBは、毎日仕事を抱えることになり、時間的余裕もないし安くしているだけあって制作内容はそれなり、修正も増えて急な対応も案件が多いので1つや2つではない。
クライアントの評価もこんな状態なのであまりよくないが、安いってことがあるので引き続き仕事は流れる。でも同時に要望も多くなり、どんどんその要望がエスカレート。
ゆっくり過ごす時間も取れず、だからといって案件を減らせば生活水準も一緒に落とさなければならない。
これじゃこの仕事が嫌いになったりメンタルが遣られてしまう。

フリーランスBは割に合わないなぁ・・・そうだ!単価を20万円にあげればいいじゃないか!
きっとそう考えるに違いない。
みなさんもそう思いますか?
もしそう思ったあなた、フリーランスを続けていきたいなら考えを改めなければなりません。

それは容易ではないし、できるならみんなそうしてる。

何故か?

お忘れだろうか?
値段を決めたのは自分自身。自分の価値を自分自身で決めてしまったのだ。
それを周囲の人がその金額と同等の価値だと認識した。そう、壱万円=1万円と認識したように。
これがフリーランスBに対する評価であり信用なのだ。

フリーランスAは、20万円の価値があると周りが認識したから20万円で取引ができる。その価値を認めてもらえないならAは取引をしない。
一方フリーランスBは、10万円の価値があると周りが認識したから10万円で取引をする。しかし品質に納得できないクライアントは10万円以上の価値を求め始める。だから実際の価値が下がって8万円や7万円で多くのことを遣らされてるような状態だ。
そんな状態だからBが15万円や20万円の価値があると認識されるはずはなく、10万円以上での取引はもうできないのだ。
また、自分の都合で価値を変えようとすれば、それは信用を裏切る行為にもなる。

厳しいことを言うようだが、単価が安いと嘆いているフリーランスは自分自身が信用度を安く見積もってしまった結果だという事を自覚しなければならない。
クライアントのせいにしがちだが、値決めをして誤った信用を植え付けてしまったのは他ならぬ自分自身なのだからその責任の一端は自分自身にもある。

正しい信用を手にするためには、全てのクライアントを失い、全ての取引を白紙に戻すくらいの覚悟で望まないと、現状を変えることはできない。

これからフリーランスとしてはじめるみなさんさんは、安易に値引きなどには応じず、のちのち悔いを残さないためにも、この仕事が嫌いにならないためにも、あくまで正規な価格で受注できるような値決めのセンスと相場観を身に付け、少しでも価値が上るように最大限努めるべきだろう。
信用と価値は比例するのだから。

壱萬円札

というお話でした。