ピグマリオン効果
Pygmalion effect
以前コラムで書いた あてにするものはあてにならな (Not to be relied upon) で、余計なプレッシャーを与えるから「頼らない」ように心がけているという話をしました。今回は、同じようにプレッシャーになり得る期待というお話。
ギリシア神話にキプロス島の王で彫刻家のピグマリオン(ピュグマリオン)の美と愛の話があります。
現実の女性に失望していたピグマリオンは、あるとき自ら理想の女性、ガラテアを彫刻する。そのうちピグマリオンは自らの彫像に恋をするようになり、ガラテアが人間になることを強く願い、その彫像から離れられなくなる。
次第に衰弱していく姿を見かねたアプロディーテがその願いを聞き入れて彫像に生命を与え、ピグマリオンの願いは叶った。
さて、本題はここから。教育心理学で「ピグマリオン効果」と呼ばれる現象があるのをご存知でしょうか。ローゼンタール効果や教師期待効果などとも呼ばれるこの現象の大きな要因は「期待」です。
1964年に米国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールは、教育現場で以下のような実験を行いました。
1964年、サンフランシスコの小学校で知能テストを行った。
学級担任には「今後、数ヶ月の間に成績が伸びてくる学習者を割り出すための検査である」と説明。
しかし、実際のところは検査に何の意味もなく、検査結果とは関係なく無作為に選んだ児童の名簿を学級担任に見せて「この名簿に記載されている児童が、今後数ヶ月の間に成績が伸びる子ども達だ」と伝えた。
その後、学級担任は、名簿の児童達の成績が向上するという期待を込めて、その児童達に接し、見事に成績が向上していった。
この実験の報告論文では、成績が向上した原因としては学級担任が子ども達に対して期待したことと、子ども達も期待されていることを意識したことで、成績が向上していったと報告されている。
つまり、人は期待することで思った以上の結果を引き出し、期待されることで自分の持つ潜在的な力を引き出せるということで、それがギリシヤ神話のピグマリオンの話とどこか似ているところから「ピグマリオン効果」と呼ばれている。
この実験、どこかで似たような話を目にしたような気がして調べたら、やはりこれも以前にコラムで書いた 青い目 茶色い (A class divides) で、この実験中に行われていた付随実験がこの実験だった。
適度な期待は確かに期待される側にとっては、程よい緊張感やモチベーションになり得るでしょうが、期待する側の期待値が過度になってしまうと、このバランスが崩れてしまう気がしてなりません。
特に日本人は、こういう場面が苦手なんじゃないかなぁ。
オリンピック然り、高校野球然り、大舞台で期待が大きすぎてプレッシャーに押し潰されるケースが多いような気がしませんか。
それとこの効果は、教育現場で児童が対象だったから効果が顕著だったのかもしれません。ちょっとだけ期待するってバランスが難しいし、スレた大人だったら果たしてどうなったでしょうか。
元となったギリシア神話のピグマリオンとガラテアの物語は、戯曲や絵画、クラシック音楽など、美と愛のテーマとして数多く取り上げられており、映画「マイ・フェア・レディ」の元にもなっているようです。
この業界でも、まさにクライアントからの予算や納期を無視した期待値は、あまり練られていない計画や企画から、あっと驚くようなWEBサイトやデザインが玉手箱から取り出したかのように出来上がる的な、笑っちゃうくらい壮大なもの。
いやいや、想像以上のものなど出てきませんよ、実際。それは期待を通り越して夢ですからね、幻と言い換えてもいい。
そんな幻想は今すぐ捨て去って、よくよく検討してからオファーしてほしいですね。美の追求の前に、制作者に余裕と言う名の愛をください!
ちなみに、僕が彫刻家でアプロディーテが彫像を現実にしてくれるのなら、女性制作ユニットを1セットつくりたいくらいですが、そうもいかないので、メンバーに美の追求もいいけど、もう少し僕に愛情をもって接してもらえるように、神様にはお願いしておきます。
ピグマリオン効果
というお話でした。
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ゲツコーギルド合同会社 CEO兼プロデューサー
2016年に東京下町から瀬戸内の離島に移住。クリエイターの働き方や人財育成、再生、地域でのクリエイティブやICTを活用したブランディングや地域創生、事業再生を得意としたプロデュースやディレクションで活躍中。メガネ&広島弁や伊予弁など方言女子が大好物。個人的には懐古的なモノがスキ。ネガティブ属性だがユーモアを忘れない。1970年 江戸下町産。