賢さより、優しさが難しい
We are What We Choose
つい、できる自分をひけらかしたくなる。そんな場面、ありませんか?賢さや器用さは、努力の前に、すでに授かっているものです。だからこそ、その力をどう使うかが問われます。けれど、使い方を決めるのは、いつも自分自身でしょう。アマゾン創業者のスピーチが、それを教えてくれます。今回は、「自分をつくるもの」というお話。
与えられるものと、選ぶもの
才能と選択の違い
2010年5月30日、ジェフ・ベゾス氏が、母校のプリンストン大学で語りました。アマゾンの創業者として知られる人物です。実は、これは卒業式ではありません。その前に開かれる、バカロレアと呼ばれる式典でのスピーチです。題名は、「We Are What We Choose」です。
ベゾス氏は、まず「才能と選択の違い」を語りました。つまり、賢さは持って生まれた才能で、やさしさは自分で選ぶものだというのです。
賢さは才能であり、やさしさは選択だ。才能は、与えられたものだから簡単だ。しかし、選択は難しいことがある。注意しなければ、自分の才能に酔ってしまう。そうなれば、たいてい、選択に悪い影響が出る。
参考:ジェフ・ベゾス バカロレアのスピーチ(2010年)より
祖母を泣かせた10歳の夏
この話の出発点は、ベゾス氏が10歳の頃の思い出です。夏になると、祖父母とキャンピングトレーラーで旅をしていました。そして、助手席の祖母は、旅の間ずっとタバコを吸っていました。
算数が好きだった少年は、ある計算を思いつきます。「一服につき2分、寿命が縮む」という広告を、思い出したのです。そこで、祖母の喫煙量から、縮んだ寿命を計算しました。そして、得意げに言いました。「おばあちゃんは、9年も寿命を縮めているよ」。
実際、少年が期待したのは、賞賛でした。ところが、祖母は泣き出してしまいます。すると、祖父は車を止め、少年を車の外へ連れ出しました。叱られると思った少年に、祖父は、静かにこう言いました。
ジェフ、いつか分かる日が来る。賢いことより、やさしくあることのほうが難しいんだ。
つまり、賢さは、持っているだけで発揮できます。しかし、やさしさは、意識して選ばなければ発揮できません。ただ、僕などは凡人なので、つい聞き流しそうになります。耳が痛い話です。
創業前の48時間
ベゾス氏がアマゾンの構想を得たのは、スピーチの16年前でした。当時は、ニューヨークの金融会社で働いていました。ところが、ウェブの利用が年に2,300%のペースで伸びていると知ります。そこで、ネットで本を売る会社を思いつきました。
しかも、30歳になったばかりで、結婚して1年でした。妻のマッケンジーさんに相談しました。すると、「やってみたら」と背中を押されます。次に、尊敬する上司に相談します。上司は、ベゾス氏をセントラルパークの散歩に連れ出し、じっくり話を聞きました。そして、こう言ったそうです。
とても良いアイデアだ。しかし、すでに良い仕事を持っていない人にとっては、もっと良いアイデアだろう。
ジェフ・ベゾス バカロレアのスピーチ(2010年)より
さらに、上司は、最終決断の前に48時間考えるよう勧めました。そして、考え抜いた末、ベゾス氏は挑戦を選びます。失敗しても、後悔はしないだろう。しかし、挑戦しなければ、一生引きずるだろう。そう思ったからです。ただし、安全とは言えない道でした。それでも、その選択を誇りに思う、とも語っています。
卒業生への問いかけ
10の問い
明日、あなたの人生は、本当の意味で始まる。自分の力で、一から書き上げていく人生だ。
- 惰性に従うか、情熱に従うか?
- 定説に従うか、独創的であろうとするか?
- 楽な人生を選ぶか、奉仕と冒険の人生を選ぶか?
- 批判にひるむか、信念を貫くか?
- 間違えたとき、ごまかすか、謝るか?
- 恋をしたとき、傷つくのを恐れて心を守るか、行動するか?
- 安全策をとるか、少し大胆に冒険するか?
- 困難に直面したとき、あきらめるか、粘り続けるか?
- 冷笑的な人になるか、何かを築く人になるか?
- 他人を犠牲にして賢くあろうとするか、やさしくあろうとするか?
ジェフ・ベゾス バカロレアのスピーチ(2010年)より
選択の連なりが物語になる
さらに、最後に、ベゾス氏はこう予言しました。80歳になり、人生を静かに振り返る時。最も心に残る語りは、自分の選択だろう、と。
結局のところ、私たちは自分の選択でできている。自分自身の素晴らしい物語を築いてください。
ジェフ・ベゾス バカロレアのスピーチ(2010年)より
つまり、人生は選択の連続です。その一つひとつが、今の自分という物語をつくってきました。だからこそ、いつか読み返した時に、素晴らしい物語だと思えるように。才能に頼らない選択をしたいと、自戒を込めて思います。
ちなみに…
ちなみに、穏やかな語り口のスピーチの裏には、ベゾス氏の迷いと決断の物語があります。
ベゾス氏が「後悔したくない」と考えた背景には、ある小説があったといいます。カズオ・イシグロの『日の名残り』です。名門貴族に仕えた執事が、過去を振り返って思い悩む物語です。この執事のように、年を取って悔やみたくない。そう考えたベゾス氏は、今やりたいことに必ず挑戦しようと、心に誓いました。
また、セントラルパークの散歩は、約2時間に及んだそうです。上司は、アイデアは堅実だが、失うものが多すぎると話しました。そして、48時間の猶予をもらったベゾス氏は、大きな決断に使える物差しを探します。たどり着いたのが、「後悔最小化フレームワーク」です。
80歳の自分が人生を振り返った時、後悔が最も少ない道を選ぶ。ベゾス氏は、2001年のインタビューで、そう語っています。つまり、スピーチの最後に出てくる「80歳」は、この物差しと同じ発想でしょう。
賢さに酔うな。やさしさを、選べ。
才能と選択
というお話でした。
~ 関連する記事 ~
~ 本文で紹介された動画 ~
~ 本文で参考にした書籍をご紹介 ~
参考・出展
東洋経済オンライン「ジェフ・ベゾスが祖母に放った「残酷すぎる一言」 プリンストン大学卒業生への伝説のスピーチ」
アゴラ「アマゾン創業者ベゾス氏に教えてもらった「選択」の重要性」(内藤忍)
ライフハッカー・日本版「アマゾン創業者ベゾスの後悔最小化フレームワーク」

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。