シュレディンガーの猫

シュレーディンガーの猫 ~ 知らないという選択

可能性と決断

Schrödinger’s Cat

仕事がうまくいくのか、作品が採用されるのか、新しい挑戦が成功するのか。結果がわからない時間は不安ですが、答えが出る前にはまだ複数の可能性が残されています。シュレーディンガーの猫を入口に、知らないまま進むことと、いつか自分で決断することを考えます。今回は、「可能性と決断」っていう話。

箱の中の猫は何を示したのか

思考実験では、猫を箱の中に入れます。箱には、放射性原子の変化を検出すると毒が出る装置がつながれています。

一定時間のあいだに原子が変化する確率は50パーセントです。量子力学の考え方をそのまま大きな世界へ広げると、箱を開けるまで、猫は生きている状態と死んでいる状態の重ね合わせとして扱われます。

もちろん、これは実際に行われた実験ではありません。シュレーディンガーは、この奇妙な結論を示すことで、量子力学の解釈を日常世界へ適用したときの問題を浮かび上がらせました。

つまり、「箱を開けるまで猫が本当に生死の両方で存在する」という単純な教訓ではありません。観測とは何か。確率で表された状態は、いつ一つの結果になるのか。そうした問いを考えるための思考実験です。

知らないことが残す可能性

私たちの生活にも、箱を開ける前のような時間があります。

転職するのか。独立するのか。作品を公開するのか。誰かに気持ちを伝えるのか。

結果は、まだ決まっていません。成功する可能性もあれば、思ったように進まない可能性もあります。

不確かな状態の意味

「知らないこと」は、欠点のように感じられます。答えを持っていないため、不安になるからです。

一方で、知らないからこそ、「まだ変わるかもしれない」という余地が残ります。まだ何者にでもなれる。これから成功するかもしれない。今の判断を変えることもできる。

結果が出る前の時間には、可能性があります。その可能性は、答えを知った瞬間に一つの現実へ変わります。だから、知らないことは悪いだけではありません。未来がまだ固定されていない状態でもあるのです。

知らないことと先延ばしは違う

ただし、可能性を残すことと、決断を先延ばしにすることは同じではありません。

箱を開けなければ、結果はわかりません。しかし、箱を抱えたままでは、次の行動も始められません。作品を公開しなければ、評価されるかどうかはわかりません。その代わり、誰かに届く可能性も生まれません。

決断は不確かさを消す

決断とは、正解を知ってから選ぶことではありません。結果がわからない状態で、それでも一つを選ぶことです。

公開する。応募する。学び始める。仕事を断る。誰かに相談する。

こうした行動を取ると、複数の可能性は一つの現実へ動き始めます。もちろん、望んだ結果になるとは限りません。それでも、決断しなければ得られない情報があります。

結果を知るためには、いつか箱を開けなければならないのです。

クリエイターの前にある箱

クリエイターは、制作のたびに小さな箱を抱えています。

作品を公開する前には、評価される可能性と、見向きもされない可能性があります。新しい技術を学ぶときも、仕事につながる可能性と、使わずに終わる可能性があります。

独立を考えるときも同じです。成功するかもしれない。失敗するかもしれない。誰にも、その結果を事前に確定させることはできません。

正解を待たずに動く

だからこそ、クリエイターに必要なのは、正解を知ってから動くことではありません。正解がわからない状態でも、一歩を踏み出すことです。

もちろん、準備は必要です。予算を確認し、期限を決め、失敗したときの戻り方も考えます。

しかし、準備を続ければ結果が保証されるわけではありません。ある段階で、公開や応募という行動を選ぶ必要があります。

作品を出したあとに得られる反応は、出す前には見えません。そのため、行動は結果を確かめる方法にもなります。

可能性を守りながら決める

「知らないままでいたい」と思うこともあります。結果を知れば、期待が壊れるかもしれないからです。

それでも、知らない状態を永遠に守ることはできません。締切は来ます。作品は完成します。環境が変わり、選ばなかった道が閉じることもあります。

大切なのは、すべてを確定させてから動こうとしないことです。

まず、小さく箱を開ける方法を考えます。作品の一部を見せる。小さな案件で試す。短期間だけ学ぶ。信頼できる人に感想を聞く。

このように行動を小さくすれば、可能性を残しながら情報を得られます。結果を一度に決めるのではなく、次の判断に必要な情報を集めるのです。

知らないという選択

未来は、箱を開けるまでわかりません。だからこそ、可能性が残っています。

しかし、可能性があるだけでは、作品も仕事も前へ進みません。どこかで、自分で箱を開ける必要があります。

「知らない」という選択は、無知を選ぶことではありません。まだ決まっていない状態を受け入れ、その中で考えることです。

やがて、決断の時が来ます。そのとき必要なのは、結果を保証する答えではありません。不確かなままでも進む、自分なりの基準です。

ちなみに…

シュレーディンガーの猫は、人生の悩みを説明するために作られた話ではありません。量子力学の考え方を日常の物体へ広げたときに生じる問題を、極端な形で示したものです。

それでも、箱を開ける前の不安と、開けた後に現実が決まる感覚は、私たちにも身近です。

クリエイターなら、公開ボタンを押す瞬間がその一つです。押す前には、作品はまだ誰の評価にも縛られていません。押した後には、反応という現実が返ってきます。

だから、結果を恐れて箱を抱え続けるのではなく、いつ開けるかを自分で決める。小さく試しながら、次の一歩を選ぶ。

結果がわからないからこそ、可能性が残っている。その可能性の中から、自分で一つを選ぼう。

可能性と決断

というお話でした。

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参考・出典

[1] Schrödinger’s cat | Encyclopaedia Britannica

[2] A Translation of Schrödinger’s Cat Paradox Paper

ロキ