自信が実力を追い越すとき
Dunnig Kruger effect
ストレートなタイトルでスミマセン。クリエイターなら自分の能力、スキルについて、よく考えることが多いと思います。例えば、就職や転職するとき、必ず履歴書や職務経歴書に書いたり、面接時に聞かれますし、営業活動をするとポートフォリオや実績を、否応なく問われます。今回は。「勘違い野郎」というお話。
ダニング・クルーガー効果とは
ダニング・クルーガー効果をご存知だでしょうか。コーネル大学のデビッド・ダニング(David Dunning)とジャスティン・クルーガー(Justin Kruger)は、自分の能力以上に自分を高く評価するという認知バイアス現象を1999年に提唱、発表しています。
自分の実力を正しく測れない
この研究では、学生に文法や論理的推論などの課題に取り組んでもらい、自分の成績をどの程度だと考えているかを調べました。その結果、成績が低い参加者ほど、自分の成績を実際より高く評価する傾向が示されました。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
ひとつの説明は、自分の能力が不足していること自体に気づきにくいというものです。課題を正しくこなすための知識が足りなければ、自分の間違いを見抜くことも難しくなります。
クリエイターにも起こり得る
例えば、Web制作の現場で「HTMLとCSSが書けるから、どんなサイトでも作れる」と考えている人がいたとします。
実際には、複雑なレスポンシブ対応やJavaScriptの実装、アクセシビリティへの配慮など、学ぶべきことは数多くあります。ところが、知らないことが多いほど、その難しさ自体を想像できない場合があるのです。
もちろん、経験が浅い人が自信を持つこと自体は悪くありません。問題なのは、自分にできることと、できないことの境界を把握しないまま、実力を過信してしまうことです。
ダニング氏とクルーガー氏は、こういう人の特徴を4つ挙げていて、噛み砕いて平たく言うとこうなる。
- 無能な人は、自身のスキルレベルを過大評価する傾向にある
- 無能な人は、他人の持つ本物のスキルを正しく認識できない
- 無能な人は、自らの無能力さがいかほどのものかを認識できない
- こんな人でも、そのスキルのトレーニングを行うことで、それまでのスキル不足に気づき、それを認めることができる
ダニング・クルーガー効果が招く問題
自分の能力を過大評価すると、本人だけでなく、仕事を依頼する側やチームにも影響が及びます。
実績を自分ひとりの手柄にする
制作会社で大きな案件に携わった人が、独立後も同じ成果を出せるとは限りません。会社での実績には、営業、ディレクション、デザイン、開発など、多くの人の力が関わっていることがあります。
それにもかかわらず、成功をすべて自分の能力によるものだと考えてしまうと、実力を見誤る原因になります。
「できます」の一言を信じてよいのか
発注側が「このようなサイトを作れますか」と尋ねたとき、応募者は「できます」と答えるかもしれません。しかし、その一言だけでは、実際のスキルや対応範囲までは分かりません。
「できる」と「できる気がする」とでは、大きな差があります。
一方、発注する側にも見極める力が求められます。肩書きや自己PRだけで判断せず、成果物や説明の具体性を確認しましょう。
ダニング・クルーガー効果から抜け出すには
自分の実力を正しく把握するには、経験を積むだけでなく、客観的な振り返りが必要です。
自分のスキルを棚卸しする
まずは、自分ができることを具体的に書き出してみましょう。例えば、HTMLとCSSなら、基本的なページ制作、レスポンシブ対応、複雑なレイアウトなどに分けて考えます。
「できる」と判断した理由も整理してみてください。実務で使った経験があるのか。誰かにレビューしてもらったのか。それとも、一度試しただけなのか。根拠を確かめることで、自分の理解が曖昧な部分も見えてきます。
他人の評価を成長に活かす
自分ひとりの判断には限界があります。経験のある人からレビューを受け、指摘された点を次の制作に活かしましょう。
ただし、他人の評価をすべて正解として受け入れる必要はありません。指摘の根拠を確認し、実際に試しながら判断することも大切です。
また、技術や環境は変化し続けます。以前は得意だったことでも、新しい手法を学ぶ必要が出てくるかもしれません。過去の実績だけに頼らず、今の自分に何ができるのかを定期的に確認しましょう。
ちなみに…
ダニング・クルーガー効果は「自信満々な人」の話だけではない
ダニング・クルーガー効果は、しばしば「能力が低い人ほど自信満々になる現象」として紹介されます。しかし、研究の結果を単純化しすぎないことも重要です。
元の研究が示したのは、特定の課題において、成績の低い参加者が自分の成績を過大評価する傾向でした。あらゆる場面で、能力の低い人が必ず自信過剰になると証明したわけではありません。
また、自己評価のズレには、課題の難しさや評価方法など、さまざまな要因が関わります。効果の説明や原因については、後続研究でも議論が続いています。
本当に怖いのは、学ぶことをやめること
自分の実力を過信することは、誰にでも起こり得ます。経験を積んだ人であっても、慣れた仕事では確認を怠ったり、過去の成功に頼ったりすることがあるでしょう。
だからこそ、自分の弱点を認めることは、能力の低さを認めることとは違います。むしろ、成長するための出発点です。
クリエイターにとって、知らないことがあるのは恥ではありません。知らないことを知ろうとせず、他人の指摘にも耳を貸さなくなることのほうが危険なのです。
自分を疑う勇気が、実力を育てる
無能な人
というお話でした。
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参考・出展
十文字学園女子大学「錯思コレクション100:ダニング=クルーガー効果」
日本心理学会第84回大会「日本の大学生におけるダニング・クルーガー効果とその性差の検討」
経済産業省「令和4年度 ダイバーシティ経営推進に向けたアンコンシャス・バイアス研究」[pdf]

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。