バルタザール

バルタザール ~ 異なる者が同じ星を目指すとき

バルタザール

Balthasar

東方の三賢者は、それぞれ異なる大陸から旅立ち、ベツレヘムの馬小屋で初めて顔を合わせた。出身も、年齢も、文化も、まったく違う。共通していたのは「星を追う」という一点だけだ。今回はバルタザールを入り口にした、多様性とチームの力というお話。

三賢者はそれぞれ「別の旅人」

東方の三賢者の名前は、実は聖書には書かれていない。ガスパール、メルキオール、バルタザールという名前が付けられたのは10世紀になってからのことだ。それ以前は「複数の占星術師たち」としか記されていなかった。

三賢人は三つの人種、三つの大陸、三つの人生の節目(青年・壮年・老年)の象徴とされるようになった。つまりこの三人は、「あらゆる世代・あらゆる地域の人間がイエスにひざまずく」ことを表すために設計されたシンボルでもある。

その中でバルタザールは、壮年の姿の賢者とされる。経験を積み、世界を知り、しかしまだ旅を続ける力を持つ者。組織に置き換えれば、現場と俯瞰の両方を持つ中堅どころだ。

三人はそれぞれ別の場所から旅立った。途中で出会ったわけでも、誰かに引率されたわけでもない。それでも同じ星の下に集まった。一つの目標が、異なる者たちを引き寄せた。

違うから強い

制作ギルド(Qrious)を立ち上げたとき、メンバーの「揃え方」について考えた。同じスキルセット、同じ感性、同じ価値観の人を集めれば、摩擦は少ない。だけど同時に、それじゃぁ組織としてつまらないなぁとも思った。

異なるバックグラウンドを持つ人が集まると、最初は話が噛み合わないこともある。デザイナーとエンジニアでは「良いアウトプット」の定義からして違う。コーダーとディレクターでは、優先順位の感覚が異なる。

しかしその違いの中から、一人では絶対に出てこなかったアイデアやハプニングが生まれる。多様性とは、摩擦の量ではなく、視点の幅のことだと思ってる。

三賢者が三人そろってベツレヘムに辿り着いたのは、三人がそれぞれ違う方角から星を見ていたからかもしれない。一人だけでは、星の位置を見誤っていた可能性がある。

「同じ星」を持てるチームをつくる

ただし、多様性だけでは機能しない。バルタザール、メルキオール、カスパールの三人が最終的に同じ場所に辿り着けたのは、追いかける星が同じだったからだ。

目指すゴールがバラバラのまま多様性を詰め込んでも、チームはまとまらない。それぞれが「自分の正しさ」で動くだけになる。重要なのは、異なる者たちが「これを作りたい」「このユーザーに届けたい」という一点で重なれるかどうかだ。

制作チームをつくるとき、スキルや経験の多様性を意識するのは当然だが、それ以上に「この星を目指せるか」を問うようにしている。スキルは後から伸ばせる。しかし、目指す星が違う人と長い旅はできない。

異なる者が、同じ星を目指す。それだけでチームは、想像を超えた場所に辿り着ける。

ちなみに…

エヴァンゲリオンのNERV本部のメインコンピュータは「MAGI(マギ)」という名前で、3つの独立したシステムによる合議制になっている。その3つの名前が、メルキオール、バルタザール、カスパーだ。

異なる判断基準を持つ三つのシステムが合議して結論を出す——作中でこの設計を施したのは天才科学者の冬月だが、元ネタが三賢者だと知ってから見返すと、また違う味わいがある。多様な視点の合議こそが、最も重要な判断を支えるという思想が、あの設定に込められていたのかもしれない。

バルタザール

というお話でした。

~ 本文で参考にした書籍をご紹介 ~

(参考・出典)