ふくろうの染物屋
Owl’s dye shop
この仕事をしてると度々起こる無茶ぶり。「もっとインパクトが欲しい」「誰もやっていない斬新なものを」——クライアントの要望はなんとなく感覚で言ってることが多いので、それを真に受けて、その通りにデザインやコーディングを進めると、お互いに不幸な結果になっちゃいます。今回は 合意形成 っていうお話。
夜行性になったフクロウ
以前、虚飾で彩られたカラス という話を書きました。カラスが真っ黒なのを気にして、いろんな羽を集めて飾ったのがバレるという話ですが、この話とつながってるんじゃないかと思うような話があります。
以前、虚飾で彩られたカラスという話を書きました。カラスが真っ黒なのを気にして、いろんな羽を集めて飾ったのがバレるという話です。実は、ふくろうの染物屋はその話とつながっています。
昔、鳥たちの羽がみな白かった頃、フクロウは腕のいい染物屋でした。おしゃれをしたい鳥たちが次々と訪れ、フクロウは注文通りに鮮やかな色に染め上げていきました。
ある日そこへ、誰よりも見栄っ張りのカラスが現れました。そしてフクロウにこう注文をしました。
「他の奴らと同じじゃ嫌だ。世界で一番目立つ、誰も見たことがない特別な色に染めてくれ」
フクロウは悩み、試行錯誤を繰り返します。しかし、カラスの「もっと、もっと特別に」という要望に応えて色を重ね続けた結果、出来上がったのはツヤのない真っ黒な羽でした。
激怒したカラスと、責任を感じて身を隠すようになったフクロウ。
今もカラスがフクロウを追い回し、フクロウが夜しか出てこなくなったのは、これが理由として語り継がれています。
「言葉」ではなく「意志」を染める
この「真っ黒な羽」の悲劇は、制作現場でもよくある出来事です。「もっとインパクトが欲しい」「誰もやっていない斬新なものを」——そういった抽象的な言葉をそのままビジュアルに落とし込むと、最終的にコンセプトが渋滞します。そのため、何が言いたいのか分からない「真っ黒なデザイン」が出来上がってしまうのです。
クリエイターがすべきなのは、カラスの無茶ぶりに対して筆を動かすことではありません。「なぜ、そこまで目立ちたいのか?」という目的を掘り下げることです。また、真意や本質を見極め、時には「色を重ねすぎると、かえって魅力が死んでしまいますよ」とプロの立場でブレーキをかけることも必要です。
つまり、要望を鵜呑みにするのは「誠実」ではなく、思考停止による「不実」です。不幸な結末を避けるためのディレクションこそが、クリエイターやエンジニアの使命なのです。
ちなみに…
ちなみに、もしカラスがどう言おうが黒くなってたんだとしたら、ふくろうの染物屋はどう立ち回れば追い掛け回されなかったのでしょうか。
僕がフクロウだったら、「夜の闇に紛れることができる最高にクールな色になったね!」とポジティブに持ち上げます。しかし経緯はどうあれ、一度失敗と思わせた成果物を言葉巧みに納得させるのは「詐欺」に近い。したがって、やはり染め始める前——つまり制作に入る前の「合意形成」に、すべてが掛かっているということを肝に銘じておきたいものですね。
ふくろうの染物屋
というお話でした。
~ 本文で参考にした動画をご紹介 ~
(参考・出典)

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。