ヘンゼルとグレーテル

ヘンゼルとグレーテル ~ おかしな家へとミスリード

守る者、守られる者

Hansel and Gretel

子どもの頃に読んだ童話を、大人になって読み返すと、違う物語に見えることがあります。頼もしい主人公も、実は誰かに支えられているものです。いつも誰かを助けている人が、思いがけず助けられることもあります。今回は、「リーダー」というお話です。

誰が誰を守る物語なのか

娘に絵本を読み聞かせてほしいと頼まれました。手に持っていたのは、グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』。なんか微妙なチョイスです。

改めて読み返すと、子ども向けの読み聞かせには少々刺激が強い物語でした。貧しさに苦しむ一家、森に置き去りにされる兄妹。そして、子どもを食べようとする魔女。なかなかに過酷な展開です。

あらすじは、こうです。

貧しい木こりの家に生まれたヘンゼルとグレーテルは、食べ物にも困る生活のなか、森に置き去りにされてしまう。

兄のヘンゼルは、帰り道がわからなくならないよう、小石を目印として残す。しかし、二度目に森へ連れていかれたときには、パンくずを鳥に食べられてしまう。兄妹は帰り道を見失ってしまう。

やがて二人は、お菓子でできた家を見つける。ところが、そこに住んでいたのは、子どもを食べようとする魔女だった。

以前この物語を読んだときは、兄のヘンゼルが妹を守る話だと思っていました。しかし、今回読み返してみると、少し印象が違いました。

魔女に捕らえられた兄を救うのは、妹のグレーテルだったのです。

つまり、物語の途中で、守る側と守られる側の立場が入れ替わります。前半では、兄が知恵を使って妹を守ります。そして後半では、妹が自分で考え、兄を救い出すのです。

この変化によって、グレーテルの自立と力強さが際立ちます。守られていた妹が、今度は兄を守る存在へと成長するのです。

リーダーシップの本質

この物語を読みながら、女性クリエイターの制作ギルド「Qrious(キユリアス)」のことを考えていました。

組織を立ち上げた当初は、創設者が方向性を示し、メンバーを支える場面が多いものです。しかし、組織が成長すれば、いつまでも一人が先頭に立ち続ける必要はありません。一人に頼る体制には、いずれ限界が訪れます。

むしろ、メンバーが経験を積み、自分で判断できるようになること。それこそが、組織の成長ではないでしょうか。

グレーテルも、兄に守られているだけの存在ではありませんでした。危機に直面すると、自分で考え、行動します。そして、自らの力で状況を変えたのです。

もちろん、現実の組織は童話ほど単純ではありません。誰か一人が、すべてを解決する必要はないのです。常に同じ人がリーダーを務める必要もありません。

たとえば、企画に強い人が方向性を示す場面もあります。一方で、技術に詳しい人が判断を主導することもあるでしょう。それぞれが得意分野で力を発揮できれば、チーム全体の可能性も広がります。

だからこそ、リーダーは何でも自分で抱え込むべきではありません。メンバーが力を発揮できる環境を整えることも、大切な役割です。ときには、主役の座を譲る勇気も必要になります。

相手を守ることと、相手の成長を妨げないこと。この両方を意識すれば、組織は一人の力に依存しなくなります。

ヘンゼルとグレーテルが教える、制作ギルドの未来

Qriousは、女性クリエイターが互いの感性や技術を持ち寄り、ともに成長していくための制作ギルドです。

創設者がいつまでも先頭に立ち、すべての判断を下す組織では、メンバーが自ら考え、挑戦する機会が限られてしまいます。だからこそ、一人ひとりが得意分野を見つけ、主体的に動ける環境を育てたいと考えています。

たとえば、デザインの方向性を示す人もいれば、実装の難題を解決する人もいます。チーム全体の進行を支える人もいるでしょう。それぞれが必要な場面で力を発揮すれば、組織はもっと柔軟に動けるようになります。

さらに、経験を積んだメンバーが新たな挑戦を始めれば、以前は支えられる側だった人が、今度は誰かを支える側に回ることもあります。

それは、個人の成長だけではありません。組織のなかで、新たな可能性が育っている証しです。

ヘンゼルとグレーテルも、最初から同じ役割を担っていたわけではありません。状況が変わったからこそ、妹のグレーテルが新たな力を発揮し、兄を救うことができました。

組織も同じです。大切なのは、リーダーを一人に固定することではありません。その場に必要な力を持つ人が、自然と前に出られる環境をつくることです。

誰もが支え手になれる組織こそ、成長し続けられる組織なのです。

ちなみに…

ちなみに、グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』は、最初から現在よく知られている形だったわけではありません。もしかしたら、これも魔法使いの誘導かもしれません。

グリム兄弟が編纂した『子どもと家庭の昔話』は、1812年に初版が刊行されました。その後も改訂が重ねられ、1857年には第7版が刊行されています。

初稿・初版・第7版を比較した研究では、会話や場面の描写が詳しくなり、物語に変化が加えられたことが指摘されています。私たちが知っている物語も、時代とともに少しずつ形を変えてきたのです。

さて、Web制作に携わる人なら、もう一つ気になる言葉があるかもしれません。それが「パンくずリスト」です。

Webサイトで「ホーム > ブログ > 記事タイトル」のように表示されるナビゲーションは、英語で breadcrumb navigation と呼ばれます。その名称は、ヘンゼルが森にパンくずを残したエピソードに由来するとされています。

ただし、童話のパンくずは鳥に食べられてしまいました。目印を残したはずなのに、兄妹は道に迷ってしまったのです。

組織運営にも、同じことがいえます。リーダーが進む方向を示すだけでなく、メンバーが自分で判断し、行動できる仕組みを整える必要があります。誰か一人の案内に頼り続けるのではなく、それぞれが自分の道を歩める組織を目指したいものです。

本当のリーダーは、誰かが自分を超える日を育てる

ヘンゼルとグレーテル

というお話でした。

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参考・出展

グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」日本語訳