発達の最近接領域 ~ ちょっと背伸びのハイヒール

発達の最近接領域 ~ ちょっと背伸びのハイヒール

発達の最近接領域

Zone of Proximal Development

例えば普段スニーカーやサンダルの人が、いきなりジミーチュウやルブタンのハイヒールを履くのはいろんな意味でハードルが高い。パンプスに慣れ、低めのヒールにも慣れ、そして最終的につま先立ちのピンヒールを履く。育成というお話。

成長過程を履物に例えてみました。人が成長するのって飛躍的にあるいは急激にではなく、ゆっくりと徐々にですよね。人材育成をする時の鉄則として「少しだけ無理をさせる」って言うのがあります。
その人ができることのちょっと上をいく課題を遣ってもらうものです。僕はこれまで何となくそれを実践してきましたけど、これって何か裏付けのようなものがあるのだろうか?と思い、調べてみたらありました。

ロシアの 心理学者 レフ・ヴィゴツキー(L.S. Vygotsky, 1896-1934)は「発達の最近接領域」なるものを提唱しています。発達の最近接領域とは例えばこういうことです。

教わらなくても仲間と一緒ならできることを仮に100%とし、自分ひとりだけだったら70%しか達成できない作業があったとする。自分ひとりじゃできない部分(30%)にチャレンジすることが「発達の最近接領域」である。

学校の勉強でも会社の仕事でも何でも個人差はあるので割合はあくまで例えで、一概に70%とは言えないでしょうけど、個人でできる部分とできない部分は誰にでもあって、誰かの補助を得て70%を80%に引き上げ、ひとりで80%できるようになることが「成長」なんだというのがヴィゴツキーの理論です。

育成のポイント

ここで大事なポイントは2つ。
1つ目は、誰かの補助を得てってところ。みなさんも経験を踏まえてイメージしてみてください。ひとりでできないことをいくらひとりで悩み、ひとりで試行錯誤しても、結局できないまま終わってしまうって経験ありませんか?
例えばいろんな習い事や趣味、ギターやサックス、ピアノ・・・英語やスペイン語、フランス語・・・編み物、料理、ダンス・・・などなど、やってはみたけど、ひとりじゃどうにもならなかったとかとか・・・
でも誰かに教わったりサポートしてもらったりすると、少しできるようになるってことありますよね。コツがつかめて自分のものにできたり、繰り返しやることで人に教えることができるまでに上達したり。

2つ目は、ひとりで努力させるために70%ではなく71%以上の課題を与えること。冒頭のスニーカーからいきなりジミーチューは難しいので、パンプスやローヒールから徐々にってお話をしました。
ひとりでできることをちょっとだけ超えることで、自分なりに努力するし、いろいろと調べる過程でわかってくることもあるでしょう。そのおかげで、誰かの手助けがあった時に腑に落ちて、それが血になったり肉となるわけです。

この業界でよく耳にする「スキルアップ」は正に、こういった過程で達成されると思うのです。しかし現状はどうでしょう。みなさんはスキルアップの機会を貰えてますか?できなければできる人に回し、勉強は独学でって人が多いんじゃないでしょうか。
これは企業や組織としては怠慢ですよね。育成をしない。そういう企業に業界に未来があるのでしょうか?

人材の育成は難しいし時間も掛かります。教える側の人は面倒くさっ!って思ってるかも知れません。だけどルーキーが成長してくれないと一向に自分も楽できないし、会社もチームも成長できません。
こういう状況が永らく続くと、できる人から辞めていく現象に繋がります。
会社を辞めてフリーランスになれば、そういう煩わしさからは解放されますが、同時に自分自身が成長する機会を失う可能性もあるので、結局はお互いが不幸になります。
できない人は使い捨て、できる人は埋もれていく・・・こういう構図の出来上がりです。

ひとりでは達成し得ない大きなこと、面白いことを達成するために、ギルドでの育成で実践してることはチャレンジさせること。これによって期待する効果は3つあります。
案件やプロジェクトでそれぞれの専門分野の幅を広げるために、本来の業務から少し離れて関連する分野にチャレンジさせることで、デザインやコーディング、ディレクション、マーケティングなどの業務が本来の業務にどう影響するかを知り、より一層、本来の業務の在り方を見直せることが一点。

次に、その分野を得意とする別のメンバーに教えてもらうことで、教わる方はもちろんだけど、教える方も改めて確認したり調べたりすることで、気付きや再認識などより深くナレッジや情報を得ることができることが一点。

そして、誰かのサポートを得て、未知の領域で成果を出させる、つまり成功体験をさせることで、個々が目指す方向に勢いをつけたり、モチベーションや自己肯定感を高めることで自信につなげるのが一点。

この3つがいい作用をもたらして、全体的な組織の底上げにつながっています。

教わる側はエゴは一旦置いといて素直に教えに従い、モノにできてからオリジナルに変化させるようにしましょう。初めて教わる料理や素材をアレンジしてはいけません。

教える側は自分の時間を取られるし、思った通りに理解しない歯がゆさもあるでしょう。でも知ってる人が知らない人に教えることで、結果的には自分が楽になり、楽になった分、自分に投資する時間も増えます。

みなさんがなるべく早く、スニーカーからじみジミーチュウやルブタンを履けるように、成長できるよう願ってやみません。

決してスニーカーがいけないわけじゃありません。大事なのはスニーカーを履こうがジミーチュウを履こうが、その選択権は自分自身にあって、そういう環境に身を置けるようにしようということなのでお間違いなく。

ところでみなさんはジミーチュウやルブタンは履けるの?

発達の最近接領域

というお話でした。

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