恩贈(送)り
Pay it forward
かつてお世話になった人が困っている時に手助けすることを「恩返し」って言いますが、恩贈(送)り(Pay it Forward)とは、受けた恩を本人へ返すのではなく、別の誰かへ送っていく考え方です。恩返しは尊い行いですが、今回は、その矢印を未来へ向け直す 恩贈り というお話。
恩贈(送)りとは
恩贈(送)りとは、誰かから受けた親切や恩を、その本人に返すのではなく、別の誰かへ送っていく考え方です。英語ではPay it Forwardと呼ばれます。
通常、恩を受けたら相手に返す「恩返し」が一般的な発想ですが恩送りは、恩返しの矢印を未来へ向け直す考え方です。受けた恩を3人の別の誰かに送る。送られた3人がまた別の3人に送る。この連鎖が続けば、善意はねずみ算式に広がっていきます。
実際には、こうした美しい連鎖がそのまま続くことは稀かもしれません。それでも、恩送りという発想そのものには、人と人との関係を温かくする力があります。
なぜ恩贈りという発想が大切なのか
恩贈りという考え方が大切な理由は、恩返しだけでは閉じてしまう関係を、外へ開いていける点にあります。恩返しは一対一の関係で完結しますが、恩送りは新しい繋がりを生み出す可能性を秘めています。
たとえば、駆け出しのころに先輩から受けた指導や機会を、今度は自分が後輩へ渡していく。これも立派な恩贈りの一つです。直接の恩返しができなくても、別の形で恩を循環させることができるのです。
また、恩贈りには見返りを求めない、という性質があります。恩を送った相手から何かを期待するのではなく、その人がまた別の誰かに送ってくれることを願う。この構造が、見返りを前提としない人間関係を育てていくのだと考えられます。
コミュニティにおける恩贈り
ここからが本題です。Qriousというフリーランスのコミュニティを運営していると、恩贈りという発想がそのまま当てはまる場面に何度も遭遇します。
たとえば、あるメンバーが仕事の進め方で困っているとき、別のメンバーが自分の経験を惜しみなく共有してくれることがあります。助けてもらった本人が、その先輩に直接何かを返すとは限りません。代わりに、今度は別のメンバーが困っているときに、自分の経験を分け与える側に回っていく。そうした循環が、コミュニティの中で自然と生まれているのです。
したがって、フリーランスという一人で動きがちな働き方だからこそ、意識したい発想があります。恩送りを文化として根付かせることが重要だと感じています。誰かに助けてもらった経験は、いずれ別の誰かを助ける力に変わっていきます。
クリエイター同士の交流イベントを続けているのも、この恩贈りの連鎖を生み出す場をつくりたいという思いからです。一つの出会いが、また別の出会いを生み、それぞれの場所で新しい恩贈りが始まっていく。そんな広がりを大切にしています。
恩贈りと制作現場の情け
恩贈りは押し売りのように感じるかもしれません。しかし、こうした配慮こそ制作現場に必要なものです。案件がスムーズな時は問題になりませんが、スケジュールがタイトになってくると、自分の都合を他に押し付けてしまいがちになります。
ディレクター・デザイナー・コーダーがチームで案件を担当する時、お互いが「何か困っていない?大丈夫?」と少しでも気にかけることができれば、精神的な負担は大きく減ります。そうした恩贈りの文化が根付いていれば、仕事も人間関係もスムーズになり、プロジェクトのリスクヘッジにもなります。結果として、事故なく納品できる現場がつくられるのです。
恩贈りをすることで自分自身が変わり、周囲が変わり、環境が変わります。恩贈りは人の為にやっているようでいて、実はその行いが回り回って自身に返ってきます。
日本でも江戸時代から「恩送り」という言葉があったようです。また「情けは人の為ならず」という言葉がありますが、これは情けは人の為にはならないという意味ではありません。人情はいずれ巡り巡って自分に返ってくる、という意味が込められています。
人のために恩を贈ると思うと気が重くなりますが、自分の為だと思えば、少しは気楽にできるのではないでしょうか。まずは、自分の近くにいる大切な人に困りごとはないか、小さな恩贈りから始めてみてください。
ちなみに…
Pay it Forwardという言葉を広めた映画「ペイ・フォワード 可能の王国」は、ある少年が考え出した社会の仕組みを描いた物語です。一人が3人に親切をし、その3人がまた別の3人に親切をする。この仕組みが社会全体に広がっていくという発想が、映画の核になっています。
原作小説の著者キャサリン・ライアン・ハイドは、この物語をきっかけに実際の社会運動にも携わりました。Pay it Forwardの考え方を広める活動でも知られています。
恩贈(送)り
というお話でした。
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(参考・出展)

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。