記憶は上書きされる
Mandela Effect
ピカチュウのしっぽの先は何色だったか、すぐに思い出せますか。多くの人が黒だったと記憶していますが、実際はどうでしょう。こんな風に、多くの人が同じ誤った記憶を共有している現象があります。マンデラエフェクトと呼ばれるものです。今回は、「存在しない記憶」っていうお話。
マンデラエフェクトとは何か
マンデラエフェクトとは、事実とは異なる記憶を不特定多数の人が共有しているように見える現象のことです。
名前の由来は、南アフリカの指導者ネルソン・マンデラ氏です。2013年に彼が亡くなった際、世界中で多くの人が、彼が1980年代に獄中で亡くなったと記憶していたことから、超常現象研究家のフィオナ・ブルーム氏が名付けました。
日本でも有名な例がいくつかあります。
例えば、ある有名なネズミのキャラクターのサスペンダーの色や、ある自動車メーカーのロゴのデザインなど、みんながこれだと信じているものが、実は少し違うという事例です。
大切なのは、これが単なる物忘れではないという点です。一人だけが間違えているのではなく、多くの人が同じ間違い方をしている。そこに、この現象の面白さがあります。
なぜ、みんなで同じ嘘を覚えるのか
なぜこんなことが起きるのでしょうか。主に3つの心理が関係しています。
一つ目は、記憶の上書きです。私たちの記憶はビデオカメラのように正確に記録されているわけではありません。思い出すたびに、少しずつ再構成されています。スキーマと呼ばれる、こうあるべきだという思い込みが、記憶を都合よく補完してしまうのです。
二つ目は、情報の汚染です。誰かの間違った発言や、加工された画像を一度見てしまうと、自分の記憶がそちらに引っ張られてしまいます。SNSで何度も同じ誤情報を見ると、本当の記憶よりもそちらが鮮明になることがあります。
三つ目は、同調圧力です。みんながそう言っているから、自分もそうだったはずだと思い込んでしまう心理です。人は集団の記憶に合わせようとする生き物です。
記憶とは、過去を保存する倉庫ではなく、現在を生きるために都度編集される物語である。正確さよりも、一貫性や物語としての分かりやすさが優先されるのだ。
私たちの脳は、正確な記録装置ではなく、物語を作る装置に近いのです。
クリエイターは記憶ではなく記録で戦う
この話は、クリエイターの仕事に直結します。
お客さまとの打ち合わせで、そんな話は聞いていない、私はこう言ったはずだ、という行き違いが起きることがあります。悪意はありません。双方が本気でそう記憶しているのです。
人の記憶は曖昧で、そして自信満々です。だからこそ、クリエイターは記憶ではなく記録で戦う必要があります。議事録、仕様書、チャットのログ。面倒に思えますが、これらは未来の自分と相手の記憶のズレから守ってくれる盾になります。
また、逆の視点も重要です。ユーザーが何かを間違って覚えているとき、頭ごなしに間違いだと指摘しても伝わりません。多くの人がそう覚えているのなら、そこにはそう覚えたくなるだけの理由、つまり物語としての自然さがあるからです。
売れるデザインや伝わる表現は、時に事実よりも、みんながそうだと信じている記憶に寄り添った方が届くことがあります。正しさと伝わりやすさは、必ずしも同じではないのです。
ちなみに…
ちなみに、マンデラエフェクトの有名な例として、ピカチュウのしっぽの先が黒いという誤記憶があります。実際は黄色一色です。しかし、多くの人が黒いと記憶しているのは、耳の先が黒いという別の記憶や、影の印象が混ざったためだと言われています。
他にも、おさるのジョージにはしっぽが無かったり、白雪姫の有名なセリフは「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」と覚えている人が多いですが、ディズニー版の正しいセリフは「魔法の鏡よ」です。
記憶は、似た要素をくっつけて一つの物語にしてしまう癖があるのです。人間の脳の勘違いや情報の書き換えなどが原因とされていますが、「パラレルワールド(並行世界)の記憶の名残ではないか」という都市伝説としても語られることがあります。
みんなが覚えているから正しい、とは限らない。記録を残せ、自分の記憶さえ疑え。
マンデラエフェクト
というお話でした。
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ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。