キジも鳴かずば撃たれまい
Silence is golden
キジも鳴かずば撃たれまい——余計な一言が自らの首を絞める場面は、SNSでも制作現場でもあとを絶ちません。言葉を発するタイミングと内容の選択が、クリエイターの仕事と評判を大きく左右します。今回は、「言葉の選択」というお話。
キジも鳴かずば撃たれまいとは
狩人がキジを探し、藪の中を歩き回っていました。どこにもキジが見つからず、諦めて帰りかけたその瞬間、潜んでいたキジが鳴き声を上げた。その声で居場所がわかり、キジは撃ち落とされました。
鳴かなければ、撃たれずに済んだ。そこから生まれたのが「キジも鳴かずば撃たれまい」という諺です。
余計な一言や不用意な行動が、自分自身を危険にさらすことがあります。言わずに済んだことを言ってしまったがために、わざわざ災いを招く。沈黙していれば何事もなかったものを、と後悔する場面は、いつの時代にも変わらず存在します。
英語には「沈黙は金なり、雄弁は銀なり(Speech is silver, silence is golden)」という言葉があります。キジも鳴かずば撃たれまいは、この「沈黙は金」の日本語版とも言えます。ただし少し違うのは、英語版が「沈黙の価値」を称えるのに対し、日本語版は「余計な一言が招く結果」をより具体的に戒めているところです。
SNS時代のキジも鳴かずば撃たれまい
SNSが当たり前になった今、キジも鳴かずば撃たれまいの教えはかつてないほど切実です。
感情的になった瞬間の投稿、後先を考えない返信、ちょっとした愚痴のつもりが全世界に公開される——SNSでの発言は、リアルの場の発言と違い、消去しても完全には消えません。スクリーンショットは瞬時に拡散し、文脈を切り取られた一言が独り歩きします。デジタルタトゥーという言葉がある通り、言葉はインターネット上に刻まれ続けます。
クリエイターやフリーランスにとって、SNSは自己PRの場であると同時に、発言が直接仕事の評判に直結する場でもあります。特定のクライアント・案件・業界に対する不満を匂わせる投稿は、たとえ固有名詞を出さなくても、関係者には伝わることがあります。「言いたいことを言える」と「言うべきことを言う」は、まったく別のことです。
プロとして活動する上で、発言を選ぶ力はデザインや技術と同じくらい重要なスキルです。言葉は打ち出した後に回収できない矢と同じ。放つ前に一呼吸置く習慣が、自分を守ります。
制作現場に活かす
「余計な一言」は制作現場でも少なくありません。
クライアントとの打ち合わせの場で、担当者の決定に違和感を覚えた。正直に言えばいいと思って、その場でぽろっと漏らした。しかし言い方や文脈が悪く、クライアントの気分を損ねた。その後の打ち合わせが微妙な雰囲気になり、関係が修復しきれないまま案件が終わった。
伝えるべき意見ではあったが、あの場であの言い方でなくてもよかった。
タイミング・言い方・場の空気——これらを読まずに発した言葉は、内容が正しくても「余計な一言」になりえます。
ただし、ここで誤解してはいけないのが、「沈黙が常に正解ではない」という点です。キジも鳴かずば撃たれまいは「黙っていればいい」という教えではありません。問題の核心にある場合、クライアントのために言うべきことは言わなければなりません。沈黙は時として怠慢であり、プロとしての放棄にもなりえます。
「言わなくていいことは言わない。言うべきことは必ず言う。」——この線引きを意識することが、制作現場での言葉の選択の本質です。ゲツコーギルドでは、伝え方に迷った時はまず文章に起こしてみることを推奨しています。書くことで感情が整理され、本当に伝えるべきことと、言わなくていいことの区別がつきやすくなるからです。
ちなみに…
ちなみに、キジは日本の国鳥です。1947年に日本鳥学会が選定しました。古事記・日本書紀にも登場し、桃太郎のお供としても知られる、日本に縁の深い鳥です。
七十二候(しちじゅうにこう)という日本の季節の細分法に、「雉始鳴(きじはじめてなく)」という候があります。小寒の末候にあたり、1月15日頃。キジのオスが春を告げるように鳴き始める時期を指します。本来は命の循環を告げる鳴き声なのに、諺の中では「鳴いたために撃たれた」という哀れな存在になってしまいました。
キジはただ、本能のままに鳴いた。それが罪だというわけではありません。問題は、鳴くタイミングと状況でした。言葉も同じです。
鳴くも鳴かぬも、選択である。
キジも鳴かずば撃たれまい
というお話でした。
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ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。