壁と釘

壁と釘 ~ 諸悪の根源

壁と釘

Nails and Wall

指示や要望通りに仕事をしていても、時に理不尽な要求や要望を受けるときがある。不条理な理屈を並べてまくしたてるその相手は、時には上司だったり、時にはクライアントだったりと様々。今回は諸悪の根源というお話。

どんな仕事でも一人でやってるわけじゃない。そこには必ず上下の関係が出来てしまう。会社であれば上司と部下の関係だし、フリーランスであれば発注者と受注者の関係。いずれも指示する側が上に立つという構図。

制作の仕事をしていると、事前に確認したにもかかわらず、相手の勝手な都合や言い分で、あっさりひっくり返されることもある。

理不尽な要求に腹を立て、あまりに酷い場合は文句や抗議をいう事もあるだろう。或いはぐっとこらえて泣き寝入りで、ストレスやフラストレーションを溜めまくりだろうか。これを書きながらも過去のあのことを思い出すと、ちょっと興奮してイラつく。

でもちょっと怒りを鎮めて考えて欲しい。果たして、その文句を言う相手はホントに正しいのだろか。イソップ寓話に、こんな話がある。

ある時、乱暴に釘で穴を開けられた壁が、釘に対してこう叫んだ。

「どうして、ぼくはきみに何も悪いことしてないのに、きみはぼくに穴を開けるの!」

すると釘はこう言った。

「きみをいじめているのは、ぼくじゃないんだよ。ぼくのお尻をガンガン叩く奴が悪いんだよ!」

イソップ寓話『 壁と釘 』より

「壁と釘」(The Wall and The Nail)イソップ童話 福娘童話集

あ~確かに…釘の尻を叩く「ハンマー」が居るのだ。つまり、直接指示をしている人が諸悪の根源とは限らないわけだ。

指示をする上司やクライアントの担当者は、誰かの指示でそうしているのかもしれない。もしそうだとしたら、その上司や担当者は伝言ゲームをしているだけで、意見を言う事も考えることもしていない可能性もある。「いいから言われた通り遣れ」って言う人はまさにこのゲームのプレイヤーで、しかも、このプレイヤーは伝言を一方通行でしか伝える機能がないので、こちらの要望や要求、提案もひっくるめて建設的な話は何一つ伝わらない伝書鳩。しかし文句や悪口、反発だけはどういう訳か伝わる。

なるほど、よくできた例えだ。壁と釘、ハンマーに例えたのは素晴らしいセンスだ。釘はまさに尻を叩かれるまま壁を攻撃し続け、壁が反発すれば釘が入って行かないことがハンマーにも伝わる。ハンマーに反発が伝われば、より大きく強い力で叩いてくる。そうなればコチラのダメージも半端じゃない。

優秀な人から辞めていく

話がちょっと反れるが、仕事ができる人って状況判断がしっかりとできて、しかも判断が速い。最初はまず正しくないことについて反発してみて、釘やハンマーがどう対処するかを見る。何度か繰り返すと対応は見えてくるので、この状況は変えられないという結論に至ると、ある程度のところで反発することを辞める。

つまり見切りをつけて別の環境に移ろうと準備を始める。だから仕事ができる人から順に辞めていったり、腕のいい制作会社はどんどん手を引いていくわけだ。

そんなところに集まる壁はスキルも経験も実績もない薄い壁ばかり。打てばひび割れる様なものなので、ひび割れたら使い捨てて、また新しいベニヤ板を探して使い捨てるというサイクルの繰り返し。

釘やハンマーはベニヤでも何でも叩ければいいので、叩けているうちは、どういう状態なのかを判断する能力もないので、自浄作用など働くわけがない。こうやってブラック企業の予備軍が出来上がる。

冒頭の話に戻すと、「諸悪の根源」であるハンマーに直接、言える状況なら直接言うべきだが、そうじゃない状況の時は感情に任せて釘に文句言ったり苦情を言うんじゃなく、一旦飲み込んで考えてから行動すべきでしょう。どちらにしても、気まぐれや考え無しに壁をエグッって来るような環境で、楽しく有意義な仕事が続けられるとは思えないし、そんなの長く続くわけがないのだから、放っておいても関係は崩壊します。

みなさんがレベルを下げて釘やハンマーと遣り合わずとも、適当なところで手を引けばいいのです。適当なところとは、スキルや経験、実績など、今の環境で得られるものがあるまでということ。得るものがなくなったら、これまでの分を正当に倍返しした上で、次のステージへ進めばいい。

それになるべく早く気付いて、潰されてしまう前にクリエイターやエンジニアのみなさんには、正しい行動をとってもらいたいと切に願っています。

最後に、釘やハンマーのほかに、打ち付ける人が居ることも忘れないで欲しい。 打ち付ける人は差し詰め、業界とか慣例とか、目に見えない敵と言えるかもしれませんね。

壁と釘

というお話でした。