クネヒト・ループレヒト

クネヒト・ループレヒト ~ 悪役を買って出る者

クネヒト・ループレヒト

Knecht Ruprecht

クリスマスといえばサンタクロース——赤い服の陽気な老人が良い子にプレゼントを届ける、世界でもっとも有名なおじいさんだ。しかしドイツには、そのサンタの隣に必ず「黒い従者」が控えている。今回はあまり知られていないクリスマスの闇の担当者、悪役の必要性 というお話。

黒い従者の正体

クネヒト・ループレヒト(Knecht Ruprecht)は、ドイツの伝統的な風習における聖ニコラウスの同伴者だ。聖ニコラウスの日(12月6日)に聖ニコラウスとともに現れ、悪い子どもを懲らしめる役割を担う。よい子にご褒美を与える聖ニコラウスがサンタクロースの原型であることから、対比して「黒いサンタクロース」とも呼ばれている。

「クネヒト」は「作男」「召使い」「従者」などを意味し、「ループレヒト」は男性名だ。その名の通り、彼はサンタの「しもべ」として控えている。

ループレヒトは鈴の付いた黒い毛皮か藁に身を包み、長いひげ、長い棒、灰の袋を持った悪魔のような風貌だ。良い子には林檎や木の実、ジンジャーブレッドなどのご褒美を確認した上で、悪い子には石灰の塊や棒や石といったありがたくないプレゼントを与える。

つまりこの二人は、完全に役割が分業されている。褒める者と、叱る者。光の担当と、影の担当。サンタ一人では、この仕組みは成立しない。

制作現場に「黒い従者」はいるか

チームでものを作るとき、全員がサンタクロースを演じようとする。誰もが褒め合い、否定せず、「いいですね」「素敵ですね」と褒めちぎる。誰も「それは違う」とは言わない。

クライアントの要望に問題があっても黙って進める。デザインの方向性がずれていても指摘しない。コードに負債が積み上がっても見て見ぬふりをする。そうして出来上がった制作物は、表面上は丸く収まっているが、どこかに歪みを抱えている。

チームとしてそれはホントに正しい在り様なのか。いや、良いチームには必ずループレヒトが必要ですそれは、嫌われ者になれということではありません。

耳の痛いことを、必要なタイミングで言える者が一人いるかどうか。
「このままだと後で問題になる」
「ユーザーにとってこの導線は分かりにくい」
「この納期は現実的ではない」

——そういう言葉を飲み込まずに発言できる体制か、そうでないかでは、長期的なアウトプットの質が大きく変わるだろう。

悪役がチームを強くする

ループレヒトは子どもを傷つけるために現れるわけではない。「悪いことをしたら悪い結果がある」という現実を、子どもが安全な形で学ぶための装置のようなもの。本当に怖いのは、悪いことをしても何も起きない世界の方だ。それは学びの機会を奪ってしまう。

制作現場でも同じことが言える。誰も指摘しないまま進んだプロジェクトが、リリース直前や公開後に崩壊したとき、そのダメージはチーム全員に降りかかる。早い段階で「それは違う」と言えた一人が、実はチームを守っているのです。

制作ギルド(Qrious)では、ディレクターが「黒い従者」として機能させることを恐れないように指導している。褒めるのは簡単だ。しかし問題を問題として言語化し、改善の方向を示すことの方が、ずっとずっとチームへの貢献になると考えています。

ちなみに…

ヨーロッパ各地には、悪い子を懲らしめる聖ニコラウスの同行者が伝えられており、アルプス周辺のクランプス、オランダやベルギーのズワルテ・ピート、フランスのル・ペール・フエタールなど、いくつかのバリエーションがあります。クネヒト・ループレヒトも、そうした「聖ニコラウスの同行者」の一種です。

『黒いサンタ』のいない、サンタクロースが単身でやってくるのは、驚くことにアメリカと日本だけだともいわれています。つまり日本とアメリカのクリスマスには、褒める者しかいない。叱る者を排除した結果、クリスマスは完全に「甘い夜」となった。それが良いことかどうかは、ループレヒトだけが知っているのかもしれない。

クネヒト・ループレヒト

というお話でした。

メリークリスマス!

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(参考・出典)