ヒュギーヌスの寓話

ヒュギーヌスの寓話 ~ 他者への気配り

ヒュギーヌスの寓話

In Hyginus’ Fabulae

この業界の人なら良く耳にするセキュア(Secure)という言葉。セキュリティの元となった言葉で、この言葉の起源はギリシャ神話まで遠くさかのぼります。ある寓話の中に、この言葉に隠された思いが込められています。今回は気配りというお話。

ギリシャ神話に ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスが書いた神話集『 ヒュギーヌスの寓話 』にこんな話がある。

かつてクーラ(気遣い,関心の神)が河を渡っていたとき、白亜を含んだ粘土を目にする。クーラはその粘土で人型を創り、その人型に思いをめぐらせていると、そこにユピテル(ジュピター,収穫の神)がやってきた。

クーラはユピテルに、その人型に精神を与えるよう頼むと、ユピテルはあっさりとそれを成し遂げる。そしてクーラはその人型に自身の名を付けようとすると、ユピテルは「その人型には自分が精神を与えたのだから、自分の名が与えられるべきだ」と異議を唱えた。

クーラとユピテルが揉めている所に、テルス(大地の神)が現れ「人型に自分のからだ(粘土)を提供したのだから、自分の名こそ、それに相応しい」と求めた。

困った彼らはサトゥルヌス(クロノス,時間の神)を裁判官に選び判断してもらうことにした。そしてサトゥルヌスは次のような判決を下す。

「ユピテルよ、お前は精神を与えたのだから、このモノが死すとき、精神を受け取りなさい。テルスよ、お前はカラダを与えたのだから、このモノが死すとき、カラダを受け取りなさい。さてクーラよ、お前はこのモノを最初に形作ったのだから、このモノが生きている間は、このモノの面倒を見なさい」

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス 著 『 クーラの寓話 』より

この話は『 クーラの寓話 』といって、クーラが創った人型が人間のはじまりという内容。

クーラ(CURA)とは、医療や福祉、介護でよく遣われるケア(CARE)やキュア(CURE)の語源となったラテン語で「配慮」や「気配り」を意味する言葉。

そしてセクーラ(Se-Cura)は、冒頭に話していた「安心な」という意味の、セキュア(Secure)やセキュリティ(Security)の語源となってますが、英語とは少しニュアンスが違っています。
ラテン語のセクーラは(Se-Cura)は「心配から離れる」、つまり「心配ない」という意味で、英語で言うところの Don’t mind に近い言葉です。

女の子に人気のプリキュア(Pretty Cure)も同じ語源ですね。そう言えば、登場人物もギリシャ神話に出てくる神の名前が使われることもありますね。

大地から創られた人型が人間らしい生き方ができるのは、クーラという配慮・気配りを粘土に込めたから。言い換えれば人が他者への配慮・気配りを怠るとき、人間性を失うってことなのかもしれません。

人型が人間で居られる間は、この配慮・気配りを忘れてはいけない…セキュアの語源を知ってからは、人との接し方や人と人との繋がり、コミュニケーションがより大切だと考えるようになりました。

ヒュギーヌスの寓話

というお話でした。