被害者は、どうやって生まれるのか
Hostile Attribution Bias
相手の曖昧な言動を、すべて自分への悪意や敵意だと解釈してしまうことってありませんか。クライアントの短い返信を冷たいと感じたり、既読スルーに悪意を読み取ったり。過剰に反応する心の癖で、一人で抱えるほど悪循環に陥ります。今回は、「心の癖と処方箋」っていうお話。
敵対的帰属バイアスとは
敵対的帰属バイアスは、心理学者のドッジらが提唱した社会情報処理モデルの中で発見された認知の歪みです。
例えば、廊下で誰かと肩がぶつかったとします。故意か偶然か分からない曖昧な状況で、このバイアスが強い人は「わざとぶつかってきた」「自分を馬鹿にしている」と即座に解釈します。事実は曖昧なのに、解釈だけが敵意に全振りされるのです。
子どもを対象にした実験では、仲間外れにされた経験が多い子ほど、このバイアスが強くなることが分かっています。一度、世界は敵だという物語を脳が採用すると、その物語に合う証拠ばかりを集め始めるのです。
これは被害妄想とは少し違います。妄想は病的なものですが、このバイアスは誰にでもある、脳のクセに近いものです。特に、真面目で傷つきやすい人ほど陥りやすい傾向があります。
なぜ、敵意を読み取ってしまうのか
なぜ、人は敵意がない場所にまで敵意を見つけてしまうのでしょうか。理由は大きく分けて二つあります。
一つは、過去の学習です。過去に理不尽に怒られたり、裏切られたりした経験が、脳に危険探知機を過敏にさせます。次に同じ目に遭わないように、少しでも怪しいものを敵とみなす方が、生存には都合が良かったからです。
もう一つは、自己肯定感の低さです。自分に自信がないとき、人は相手の行動を自分への評価だと結びつけやすくなります。本当は相手が忙しいだけの既読スルーも、自分が嫌われた証拠に変換されてしまいます。
SNSはこのバイアスを加速させます。文字だけのコミュニケーションは情報が少なく、曖昧です。曖昧だからこそ、読む側の心の状態がそのまま解釈に反映されます。
人は事実に傷つくのではない。事実に対する解釈に傷つくのだ。解釈は自由に選べるはずなのに、一度敵という眼鏡をかけると、世界はすべて敵意で満ちて見えるのである。
敵に見える世界は、世界が作ったのではなく、自分の眼鏡が作り出したのかもしれません。
抜け出すための処方箋
では、このやっかいな癖からどう抜け出せばいいのでしょうか。クリエイターとして、現場で使える三つの方法があります。
一つ目は、事実と解釈を分けることです。ノートに線を引き、左側に起きた事実、右側に自分の解釈を書きます。「返信が来ない」は事実。「自分は見捨てられた」は解釈です。書き出すだけで、多くの悩みが解釈の側にあったことに気づきます。
二つ目は、善意の誤解をしてみることです。敵意の誤解ではなく、善意に誤解するのです。「忙しくて返信できないほど、自分の仕事に集中してくれている」と、あえて好意的に解釈してみる。最初は嘘っぽくても、脳は好意的な物語も同じように学習します。
三つ目は、チームで仕事をすることです。一人で抱え込むと、解釈はどんどん悪い方へ暴走します。以前書いた記事「遠くへ行きたきゃみんなで行け」でも触れましたが、信頼できるギルドがいることで、「それは考えすぎだよ」と現実に戻してくれる他者の視点が手に入ります。フリーランスの孤独は、このバイアスの一番の餌です。
世界は、あなたが思っているほどあなたに興味がありません。それは冷たい事実ではなく、むしろ救いなのです。
ちなみに…
ちなみに、このバイアスは幼少期のいじめや、厳しい親との関係で強まりやすいと言われていますが、裏を返せば後からでも弱めることができます。
ドッジの研究では、相手の行動の別の可能性を考えるトレーニングを繰り返すことで、攻撃的な行動が半分以下に減ったという報告もあります。認知は癖であり、癖は訓練で変えられます。
子どもの頃に身につけた危険探知機は、大人になった今、もう少し感度を下げても大丈夫なのかもしれません。
世界は敵だらけではない。眼鏡をかけ替えるだけで、味方だらけになる。
敵対的帰属バイアス
というお話でした。
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参考・出展

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。