フランクインセンス

フランクインセンス ~ 贈り物の本質

フランクインセンス

Frankincense

クリスマスの夜、誰かに贈り物をするとき「何を贈ろう」と考えますよね。しかし東方の三賢者がキリストに贈った三つの贈り物のうち、最も不思議なのは「香り」でした。食べられるわけでも、使えるわけでもない。それでも彼らが香りを選んだ理由を考えると、贈り物の本質が見えてきます。今回は 贈ることの意味 というお話。

三賢者が「香り」を贈った理由

東方の三賢者がベツレヘムの馬小屋に持参した贈り物は三つでした。黄金フランクインセンス(乳香)、そしてミルラ(没薬)

黄金はわかる。王への敬意を示す最上の贈り物です。しかし乳香とミルラは、どちらも樹脂から採れる「香り」だ。腹も満たせないし、体も温まらない。なぜ賢者たちは、そんなものを選んだのでしょう。

古代において、乳香は単なる香りではなかったといいます。神殿での儀式に焚かれ、「祈りを天に届ける煙」として使われてました。つまりフランクインセンスは、目に見えないものを届けるための媒介だったと言えます。

贈った賢者たちのメッセージはこうだ——「あなたのために祈っている」。それをモノに込めて差し出した。何を贈るかではなく、なぜ贈るかが、贈り物の本質だ。

「何を届けるか」より「なぜ届けるか」

Web制作の現場で、同じような問いに突き当たることがあります。

クライアントから「バナーを作ってほしい」と依頼が来る。サイズ、色、テキスト、全部指定通りに仕上げた。しかし納品した瞬間、「なんか違う」と言われる。

仕様は満たしているが、何かが足りない。その「何か」こそが、フランクインセンスに相当するものです。

届けたいのは画像ではなく、その先にある感情や意図だ。 クライアントが本当に欲しいのは、バナーを見たユーザーが「クリックしたくなる気持ち」であり、「信頼を感じる瞬間」なのです。それを理解せずに仕様だけを満たしても、祈りのない香りと同じになるということです。

「何を作るか(What)」は仕様書に書いてあります。しかし「なぜ作るか(Why)」は、自分で問い続けなければ誰も教えてはくれない。

見えないものを届ける技術

では、どうすれば「なぜ」を届けられるか。

一つ目は、制作物の向こう側にいる人を想像すること。バナーを見るのは誰か。どんな状況で、どんな気持ちで画面を見ているか。その人の一瞬に寄り添う設計ができて初めて、見えないものが伝わります。

二つ目は、「なぜこうしたのか」を言語化する習慣を持つこと。フォントを選んだ理由、余白の取り方、色のトーン——1つ1つの判断に「祈り」が込められているかどうか。それを言葉にできないまま納品しているとしたら、香りのない乳香を差し出しているのと変わりません。

三賢者は長い旅をして、星を追い、その果てに「香り」を差し出しました。その行為の重さが、贈り物に意味を与えるのです。制作物も同じ。どれだけの思考と意図を込めたかが、受け取る側に静かに伝わるのです。

ちなみに…

フランクインセンスの原料となる乳香は、アラビア半島やアフリカ北東部に自生する「ボスウェリア」という木の幹に傷をつけると滲み出てくる樹脂が、乾燥して固まったものだそうです。つまり乳香とは、木が傷ついたときに流す「涙」のようなものでもあります。

傷ついた木が香りを生む——そう考えると、苦労して生み出した制作物が誰かの心を動かす瞬間と、どこか重なる気がしてなりません。

フランクインセンス

というお話でした。

メリークリスマス!

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(参考・出典)