エベネザー・スクルージ
Ebenezer Scrooge
クリスマスの夜に三人の幽霊に訪れられた守銭奴の老人。ディケンズの『クリスマス・キャロル』に登場するエベネザー・スクルージは、世界で最も有名な「変わった男」かもしれない。しかし彼が変わることができたのは、耳を塞がずに幽霊の声を聞いたからだ。今回は フィードバックと自己変革 というお話。
三人の幽霊が見せたもの
1843年、イギリスの小説家 チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(英: Charles John Huffam Dickens、1812年2月7日 – 1870年6月9日)が発表した中編小説『クリスマス・キャロル』。主人公のエベネザー・スクルージは、金しか信じない冷酷な老商人。クリスマスも「時間の無駄」と切り捨て、貧しい人々への寄付を一切断る。
そのスクルージのもとへ、クリスマスの夜に三人の幽霊が訪れる。
「過去のクリスマスの幽霊」は、スクルージが温かい心を持っていた若い頃を見せた。
参考:クリスマス・キャロル
「現在のクリスマスの幽霊」は、貧しくても幸福に暮らす人々の姿を見せた。
「未来のクリスマスの幽霊」は、誰にも惜しまれずに死ぬスクルージ自身の末路を見せた。
三人が見せたのは、どれも「現実」だ。作り話でも脅しでもない。スクルージ自身の過去・現在・未来の鏡だ。そしてスクルージは、その鏡から目を逸らさなかった。だから変わることができた。
フィードバックを「幽霊」と思えるか
制作現場でフィードバックを受けるとき、人は二つに分かれる。
素直に受け取れる人と、防御に入る人だ。後者は決して珍しくない。時間をかけて作ったものを否定されると、自分自身を否定された感覚になる。それは人間として自然な反応だ。
しかし、そのフィードバックが「過去・現在・未来の鏡」だったとしたら、どうだろう。
「このデザインでは伝わらない」は、過去の判断への指摘だ。
「ユーザーが迷っている」は、現在起きている現実だ。
「このまま進むと離脱率が上がる」は、未来の予測だ。
三つとも、目を逸らしたいが逸らしてはいけない情報だ。
スクルージが幽霊を「うるさい」と追い払っていたら、彼の物語はそこで終わっていただろう。フィードバックもまた、追い払えばその瞬間は楽になる。しかし作品の末路は、誰にも惜しまれないスクルージの墓と同じになる。
「変わった」ではなく「戻った」
スクルージの物語で見落とされがちな点がある。彼は「新しい人間になった」のではないということです。
「過去のクリスマスの幽霊」が見せた場面——若き日のスクルージは、明るく笑い、人を慕い、クリスマスを喜んでいた。つまり彼は、もともと温かい人間だった。それが、傷つき、失い、恐れるうちに、金の鎧で自分を覆うようになった。
三人の幽霊がしたのは、その鎧を剥がす作業です。変革ではなく、回帰だった。
クリエイターも同じかもしれません。仕事を重ねるうちに、クライアントの顔色を読むことに慣れ、無難な選択に慣れ、いつの間にか「作りたいもの」より「怒られないもの」を優先するようになる。そのとき必要なのは、新しい何かを加えることではないはず。最初に「なぜ作るのか」と思った気持ちに戻ることです。
フィードバックの本当の価値は、欠点を指摘することではなく、その鎧を剥がすきっかけを与えることにあると考えています。
ちなみに…
ディケンズが『クリスマス・キャロル』を書いたのは、わずか6週間だったといいます。しかも当時の彼は、出版社との契約トラブルや借金に追われ、極めて苦しい状況にあった。そんな中で書かれたこの物語が、世界中で170年以上読み継がれているのです。
また「スクルージ」という名前は、今では英語で「守銭奴」「ケチ」を意味する一般名詞として辞書に載っています。一人の登場人物の名前が、言語そのものに取り込まれるほどの影響力を持った作品は、そう多くありません。
スクルージ
というお話でした。
メリークリスマス!
~ 本文で参考にした書籍をご紹介 ~
(参考・出典)

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。