あと五十日 ~ 強制リセットのその先に

あと五十日 ~ 強制リセットのその先に

あと五十日

And Then

ある日突然、命や人生に期限がつけられたら、あなたならどうしますか。すぐに人生が終わってもいいなんて思える人はそれほど多くないでしょう。きっと、どう過ごしたとして悔いが残りそうですよね。その後というお話。

よくノストラダムスの大予言とかマヤの予言とか、アルマゲドン、バイオハザードとか・・・この世の終わりにまつわる話って次から次へと出てきますよね。後半はちょっと違いますけど。
病気で余命宣告されるみたいなシリアスなケースは別として、もし予言した日にホントに終末を迎えるとしたら、きっと悔いが残らないような行動をとろうとするでしょう。

星新一(1926年9月6日 – 1997年12月30日)のショートストーリーに『あと五十日』というのがあります。

ある平凡なサラリーマンの前に得体の知れない男が現れ「あと50日ですよ」と突然告げる。次の日「あと49日でございます」というので、サラリーマンは「何がだ!」と聞き返すと、得体の知れない男は「いろいろと整理がおありでしょうから教えて差し上げているのです」と答えた。

神社やお寺でお祓いをしてもらっても、得体の知れない男は現れ「あと40日です」とカウントダウンを続ける。ヤケになって自殺しようにも体が言うことを聞かずに逝くことができなかった。
サラリーマンは、とうとう覚悟し、生命保険を増額し、家族の将来のためにと蓄えていたお金を使って海外で豪遊する。カウントダウンはその間も続き、おかしく思っていた家族にも打ち明けた。
妻は取り乱し、息子は深刻な顔をする。しかしサラリーマンは死ぬ前にすべきことがある、と立ち直る。

次の日から職場で仕事の引継ぎをはじめ、心構えなどを部下に伝える。一方で社長には普段部下がどのように誤魔化しいるかを知らせ、どうせ死ぬんだから、どう思われようと知ったことかと開き直った。

「あと4日です」と得体の知れない男が伝えると、サラリーマンは「この期に及んでジタバタしないよ、お前はそれを見たいんだろうけどな」と返す。
サラリーマンは「私はかつて浮気を何度かした、この間の豪遊でも好きな事をした」と打ち明けると、妻も「わたしも浮気をしましたわ」、息子も「実は僕はお父さんの財布からお金をくすねたことがある」と死ぬ前に暴露合戦を始める。

そして「あと1日、つまり、明日の夜中までです」と最後のカウントダウンを告げると、サラリーマンは、もうやり残したことはないか、と振り返り、友人への借金の証書を焼き捨て、睡眠薬を飲んで、そっと目を閉じた。

サラリーマンは、はじめのうちは耳もかさずに信じていませんでしたが、徐々に得体の知れない男の言葉を信じるようになり、現実なんだと受け入れ、開き直って終末を迎えるというストーリー展開に引き込まれます。

この物語にはまだ続きがあります。

睡眠薬を飲み、目を閉じたものの、それでも目が冴えて眠れないサラリーマン。ふと時計に目をやると、もう夜中の3時になっていた。
「自分はもう死んだのだろうか」・・・いや、当然死んではいない。

すると「第1日目でございます」と得体の知れない男がサラリーマンに伝えた。

「どういうことだ」と詰め寄るサラリーマンに続けて、こう言い放つ。
「これからどうなさるのか、私の興味はそこにあるのです。もう出現はしませんよ、後は遠くから見守らせて頂きます」
そう言って、得体の知れない男は二度と現れなくなった。

僕はこの話の展開を、会社を辞めてフリーランスになるときの経過によく似ているなぁと感じました。

はじめは疑いもせず会社に、仕事に、従事しますが、徐々に「あれ?」っと違和感を感じ始め、「あれあれ?ちょっと違うんじゃない?」という違和感がやがて確信に変わってきたところで、会社や上司に突っかかり、開き直って整理を始める。そして悪態をついて会社を辞めていく。
どうです?言われてみれば心当たりがある方もいるのでは?

さらに得体のしれない男は、去り際に「これからどうなるかが見た」と言っています。会社を辞めた後にそのサラリーマンがどうするかに興味があるんだと。

つまり何が言いたいかというと、僕が感じたフリーランスへの経過に置き換えて例えるならば、フリーランスとしてこの先どう進んでいくのか、僕は非常に楽しみにしている。そう言ってる様に聞こえたわけです。

得体の知れないその男は、強制的にリセットを掛けるように仕向けました。
うがった見方かもしれませんが、その得体のしれない男の正体は、実は自分の内なる声だったのかもしれません。鬱屈したものを開放したくてリセットしちゃおう。そう勝手に解釈して考えるとスッキリしたオチだなぁって思うのです。

あと五十日

というお話でした。

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