羊飼いたち

羊飼いたち ~ 最初に選ばれた名もなき者

羊飼いたちの夜

The Shepherds of Christmas Night

クリスマスといえば、サンタ、トナカイ、エルフ、星を追う賢者たち。華やかな登場人物が並ぶ中、もっとも地味で、もっとも忘れられやすい存在がいる。野原で夜通し羊の番をしていた、名もなき羊飼いたち。しかし聖書によれば、キリスト誕生を最初に知らされたのは彼らだった。 なぜ王でも賢者でもなく、羊飼いが選ばれたのか。今回は 最初に選ばれる者 というお話。

羊飼いとは

クリスマスの場面に登場する羊飼いたちは、当時のユダヤ社会において最底辺の職業とされていました。

彼らは律法上「不浄」な存在と見なされ、法廷で証言する資格すら認められていなかった。また宗教的な安息日も守れず、屋外に寝泊まりし、社会の主流からは完全に切り離された人々だった。神殿に集まる祭司や律法学者たちからすれば、羊飼いは「いないも同然の存在」だったのだ。

しかし彼らには、ひとつの重い責任があった。羊を一頭でも失えば、家族が路頭に迷う。そのため夜通し野原に座り、狼の気配に耳をそばだて、群れから目を離さなかった。誰にも見られない場所で、誰にも評価されないまま、ただ職務を果たし続けていた。

これはクリエイターの現場と、驚くほど似ている。コーダーやバックエンドエンジニア、校正担当、品質管理——目立たず、名前も出ず、しかし彼らが夜通し仕事を守っているから、翌朝サービスが動いている。羊飼いたちの姿は、そういう人たちと重なる。

羊飼いが最初に選ばれた理由

聖書(ルカ伝2章)によれば、キリスト誕生の夜、天使が最初に現れたのは野原の羊飼いたちのところだった。王宮でも神殿でも、学者の書斎でもなく、野外で夜番をしていた名もなき者たちのところへ。 この「なぜ」を考えると、とても興味深い。

たとえば、東方から来た賢者たち(三博士)は、星を読み、長旅を経て、後からたどり着いた。知識と準備は万全だったが、「今夜知る」ことはできなかった。またヘロデ王は知らせを受けたが、「脅威」として受け取り、排除しようとした。権力と情報を持っていながら、それを正しく使えなかった。

しかし羊飼いたちは違った。天使から告げられた瞬間、「急いで行って確かめよう」と動いた。疑わず、打算もなく、準備が整うのを待たず、ただ素直に動いた。

つまり、最初に選ばれたのは「最も賢い者」でも「最も権威ある者」でもなかった。「聞いて、すぐ動ける者」だったのだ。

クリエイターに置き換えると、思い当たる節がある。スキルが揃ったら動こう、実績ができたら発信しよう——そうやって準備を重ねている間に、素直に手を挙げた人がチャンスを掴んでいく。羊飼いの行動原理は、2000年後の今もそのまま通用する。

羊飼いが持ち帰ったもの

馬小屋を後にした羊飼いたちに、何か特別なものが与えられたかというと、そうではない。社会的な地位も変わらない。名誉も報酬も、何ひとつ変わらなかった。

しかしルカ伝にはこう記されている。「羊飼いたちは帰りながら、見聞きしたことについて、神をあがめ、賛美した」と。

彼らが持ち帰ったのは、「自分がそこにいた」という体験だけだった。そしてその体験を、語り続けた。名もなき羊飼いたちの証言が、2000年後の今もこうして読まれている。

これはクリエイターにとって、ポートフォリオや発信の話に直結する。仕事の成果がクライアントのものになっても、自分が「作った」「関わった」「あの夜そこにいた」という事実は消えない。そのため、それを言葉にして残し続けることが、次の仕事と次の信頼の種になる。

見返りがなくても、語ることをやめなかった羊飼いたちが、歴史に名を刻んだ。

ちなみに…

ちなみに、羊飼いがクリスマスの場面に登場するのはルカ伝だけ。マタイ伝には東方の賢者(三博士)が登場するが、羊飼いは出てこない。つまり私たちが「クリスマスといえば」と思い浮かべる羊飼いのシーンは、ルカという一人の著者が伝えたものだ。

またルカはもともと医師であり、社会的弱者や女性、異邦人の視点を重視した記録者として知られている。羊飼いという「除外された人々」を最初の証人として丁寧に描いたのは、ルカの視点があってこそだった。

誰かが「この人たちのことを書き残そう」と思わなければ、羊飼いたちの話は伝わらなかった。記録する者がいなければ、歴史に残らない。クリエイターが発信し続けることの意味を、ここにも感じる。

最初に選ばれる者

というお話でした。

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(参考・出典)