ルサンチマン
Ressentiment
例えばSNSを開くと、同業者の「華やかな実績」や「キラキラした環境」が目に飛び込んできた時、「ケッ!」と吐き捨てたくなるドロドロした感情を抱いたことありませんか?このドロドロした気持ちの正体は何なんだろう。今回は 心の毒との向き合い方 というお話。
「酸っぱい葡萄」のその先にある執念
以前、お話しした「すっぱいブドウ」は、手に入らないものを「価値がない」と思い込むことで自分を守る、いわば可愛い負け惜しみの類でした。しかし、ルサンチマンはもう少し根が深い感情です。単に諦めるだけでなく、「持っているアイツらは悪で、間違っている」と相手を下げることで、自分の無力さを「正義」にすり替えてしまう心の動きです。
そのドロリとした感情の正体は、19世紀の哲学者フリードリヒ・ニーチェが提唱した「ルサンチマン」です。弱者が強者に対して抱く、単なる嫉妬を超えた「恨み」の感情を指します。怒り、嫉妬、怨恨、復讐心が内攻的に鬱積した心理状態です。つまり、相手を引きずり下ろすことで心の均衡を保とうとする、負の感情と言えます。
Web制作の現場でも、こんな思考が頭をよぎることはないでしょうか。たとえば「数字重視でデザインを雑に扱うLPには魂がない」と感じたり、「ノーコードやAIでサイトを作る人は、そもそもクリエイターとは呼べない」と言いたくなったりすることです。つまり、他者の手法を叩くことで、新しい技術を学べない自分や結果を出せていない現状を正当化する。これがルサンチマンの典型的な姿です。
他責という名のブーメラン
Webクリエイターは常に比較され、自己肯定感が削られやすい職業です。そのため、気づかないうちに「環境が悪い」「クライアントが分かっていない」「自分を評価しない社会が悪い」と、心の防壁を築いてしまいがちです。
しかし、ここに大きなジレンマが潜んでいます。他責にすることで一瞬は心が軽くなります。ところが、それは同時に「自分には現状を変える力がない」と宣言しているのと同じことです。
さらに、他人を否定し続けることで、自分の市場価値や成長の可能性まで否定してしまいます。この「他責のブーメラン」は、いつか必ず自分に跳ね返ります。そして、さらに深く自己肯定感を傷つけるのです。
他人を否定しても、デザインの質が上がるわけではありません。また、コードが一行たりとも綺麗になることもありません。自分を守るための盾が、いつの間にか自分の成長を止める壁になっていないか。ルサンチマンの炎は、放っておくと自分自身のクリエイティビティさえも焼き尽くしてしまうのです。
その熱量を、自分を研ぐ砥石に変える
もし、誰かに対して激しいルサンチマンを感じたなら、それはあなたが「本当はそうなりたい」と願っている証拠でもあります。したがって、その負のエネルギーを相手を呪うために使うのではなく、自分をアップデートする原動力に変えましょう。
「あいつのやり方は気に入らないが、なぜあんなに支持されているのか?」と冷静に分析してみてください。その瞬間、あなたは「感情に支配される弱者」から、一歩下がって俯瞰する「プロデューサー」へと進化できるはずです。
結局のところ、自分を救えるのは他人の否定ではありません。自分自身への小さな肯定の積み重ねだけが、あなたを前へ進めてくれるのです。
ちなみに…
ちなみに、ニーチェはこのルサンチマンを克服した先にある、自らの価値観で生きる存在を「超人」と呼びました。また、ルサンチマンは誰の心にも潜む感情であり、克服できること自体が人間的な成長の証だとも述べています。
Web業界で言えば、トレンドに一喜一憂せず、かといって古きに固執もせず、自分の哲学を持って淡々と最高のプロダクトをつくる。そんな「超デザイナー」「超コーダー」を目指しましょう!
ルサンチマン
というお話でした。
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(出典・参考)
- 榎本博明『ルサンチマン」の心理学』(PHP研究所)

ゲツコーギルド合同会社 CEO兼クリエイティブ・コンサルタント
約30年ほど前、インターネットの黎明期から企画・マーケティング、システムやネットワーク開発など、文字通りWEB業界を創ってきました。徐々に大規模プロジェクトが増えたことに伴い、プロデュースやディレクション、コンサルティング、マネジメントを求められるようになり、東日本大震災をきっかけに、フリーランスの地位向上と働き方の創出のために制作ギルドを創立。配信やセミナーなど育成や再生も開始し、デザイナーやコーダーはもちろん、ディレクターやプロデューサーも数多く輩出しています。