逃げ切る技術
Stalemate
これまでにチェス関連の話題をいくつか取り上げましたが、チェスのルールで勝たなくてもいいという考え方は、勝つことよりも、負けないことの方が大事だと思う僕にとって、一番共感できるポイントです。この「ステイルメイト」というルールは絶体絶命に見えても、うまく立ち回れば引き分けに持ち込める。今回は 逃げ切る技術 というお話。
ステイルメイトという「奇妙なルール」
チェスでは、大手を掛けた「チェックメイト(詰み)」とは別に「ステイルメイト」というルールがあります。 自分の番なのに動かせる駒が一つもなく、かつ王が直接攻撃(チェック)されていない状態。この瞬間、どれほど戦力差があっても、試合は強制的に「引き分け」となる謎のルール。負けてるはずなのに引き分け。
クリエイティブの世界でも、これに似た状況はありませんか? クライアントの要望と予算が完全に衝突し、どちらに転んでもプロジェクトが破綻する。あるいは、技術的な制約で「進むことも退くこともできない」膠着状態。 しかし、ステイルメイトの真髄は、圧倒的に不利な側が「あえてこの状況に持ち込むことで、負けを回避する」という逆転の守備戦術にあります。
伝説のドロー
1978年の世界チェス選手権第5局、ヴィクトール・リヴォヴィッチ・コルチノイ(露:Ви́ктор Льво́вич Корчно́й、1931年3月23日 – 2016年6月6日)とアナトリー・エフゲーニエヴィチ・カルポフ(露:Анато́лий Евге́ньевич Ка́рпов、1951年5月23日 – )の対局。
124手目、ビショップのエンドゲームでステイルメイトが成立し引き分けとなりました。
この試合は世界チェス選手権の決勝戦で最も長い対局となり、2007年以前に引き分けで終わった唯一の試合でもあります。
また歴史的には面白いことに、ステイルメイトのルールはかつて「負け」「引き分け」「勝ち」と時代や国によってバラバラで、17世紀のイングランドではステイルメイトを仕掛けた側が「負け」とされていました。
さらにかつて王侯貴族の相手をしていたプロ棋士たちが、貴族のメンツを潰さないために「ステイルメイトは引き分け」というルールを定めたのが今日の形につながったという経緯もあります。
そういう意味では、勝つことよりも負けないというポリシーは、ステイルメイトの精神に合ってるかな。
ちなみに…
ちなみに、ステイルメイトは今日、外交や政治の文脈でも「膠着状態」「行き詰まり」を指す言葉として広く使われています。ツークツワンクが「動かざるを得ない絶望」なら、ステイルメイトは「動けないまま止まる状態」。ニュアンスの違いが面白い対比になります。
ステイルメイト
というお話でした。
~ 本文で参考にした書籍をご紹介 ~
(参照・出典)